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「「いらっしゃいませ~。」」
お店に着くと、落ち着き始めた店内にかわいらしい声が響く。
メロウさんとビドーさんの双子のお嬢さん、ベッカちゃんとフルールちゃんだ。
スカイブルーとピンクの体色のふたりは良く目立つ。
今日はかわいらしいフリルのエプロンをつけて、店内をあっちこっち動き回っていた。
「3つです~。冷製パスタも3つでよろしく~。」
キャサリンさんが人数を申告すると、ベッカちゃんが開いた席に案内してくれる。
私を見て不思議そうな顔をしたものの、注文を復唱すると奥に伝えに行ってくれた。
「お水どうぞ~。」
席に着くと、今度はフルールちゃんがお水の入ったコップを3つ出してくれる。
おしぼりもどうぞと勧められた時は、日本の喫茶店を思い出した。
これってこっちで自然に出来上がったサービスなのかなあ。
さすがに、これは元ネタあー兄ちゃんだったりしないよね?
ん?フルールちゃんにじいいっと見られている。
何だろう。聞いてみた方がいいのかな?
「フルールちゃん?」
「ひとつでお外にいてもいいの?怒られない?」
怒るって、クルビスさんのことかな?
蜜月で一緒にいるところを目撃されてるからなあ。
それなら大丈夫だと伝えようとすると、カイザーさんが先に「ちゃんとついて来てくれてるから大丈夫ですよ。行き返りはクルビス隊長が送ってくださるそうです。」と答える。
ついて来てる?って誰が?
「そっかあ。じゃあ、安心だね。」
何が安心?
え。もしかして私だけわかってない感じ?
フルールちゃんを見送った後カイザーさんに聞いてみることにする。
すると大層驚かれた。
「ハルカさんはレシピの公開の件で、護衛がずっとついてらっしゃるでしょう?フルールちゃんはそのことを聞いてきたのですよ。まだ教室が始まってない状況でひとつなんて危ないですから。」
あ。ああ。そういうことかあ。
そういえば、今の私には着かず離れずで護衛が付いてくれてるんだよね。
私が和菓子メインでレシピを広めようとしてるから。
この街ではレシピ自体に非常に価値があるから、しばらくは私の身を守るために護衛が着くことになっている。
最初は、いくら情報が保護の対象になるって言っても、やり過ぎだって思ったんだよね。
料理教室は誰でも参加できるし、レシピも秘密にする気はないから、そのうち嫌でも耳に入るのにって。
でも、レシピを先に聞き出そうとするひとが押しかけてきたり、私の料理教室に入れてくれって特攻かけてきたりするひと達を見て、ちょっと怖くなった。
それで、クルビスさんにも危ないからと頼まれて、最低限の護衛は着けてもらうことになったんだよね。
でも、転移局で働く間は隊士さんがいることでお仕事に差し支えてもいけないので、外から警護してもらってる。
今も店内の離れた場所に席を取って、ひっそり警護してくれてるはずだ。
まさか子供のフルールちゃんにまで心配されてるとは。
それだけ、レシピの重要性に関する認識が浸透してるんだろうなあ。
お菓子の作り方教えるだけなんだけど。
何でこんな大ごとになってるんだろう。
「楽しみですね~。料理教室が始まったら、北の守備隊でも食べられるようになるんでしょう?私、ぜったい整理券獲得してみせますから!」
異世界との認識の差を改めて感じてると、今度はキャサリンさんがうっとりとため息をつきながら話してくれる。
整理券?え。何それ。何だか私の知らない所でえらい話になってませんか?