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コーヒーを一口飲む。
朝から掃除を頑張って、ホッと一息ついているところだ。
コーヒーなんて仕事中に飲むものだったのに、今ではゆっくりする時に飲むようになった。
慣れた香りに懐かしさを感じるからかもしれないけど、ホントに遠いとこまで来たなあとしみじみとする。
あー兄ちゃんからメルバさんへ、そしてルシェリードさんを経由してルシェモモではコーヒーは「カフェ」として一般的に親しまれている。
色も黒っぽいため、多少苦味があっても人気のようだ。
色が変わらないのは、異世界に運ばれてきた時に魔素をずいぶん取り込んだ結果らしいけど、そのおかげで、人気は高いもののコーヒーは小さな専用カップで1日1杯までと決められている。
飲み過ぎると、魔素酔いを起こす危険があって、場合によっては薬替わりに使われることもあるらしい。
それをいつも通りクルビスさんのひざの上で堪能している。
最初は魔素酔いを起こした時の用心のためだったけど、今では習慣化してしまった。
ちなみに、クルビスさんは執務中。
これがまた早いんだよねえ。
蜜月になって、四六時中一緒にいるようになってから、初めてお仕事中の姿を見たんだけど、集中力がものすごいの。
ピリっとした空気を漂わせて、テキパキと処理していく姿はまさに『出来る男』って感じ。
膝の上に私がいるのが違和感半端ないんだけど、本人曰くこの方が集中出来るのだそうで、蜜月が終っても放してくれそうにないんだよね。
コーヒーブレイクに膝抱っこは二人きりの時が多いから妥協したけど、お仕事中も膝抱っこって、この先もずっと続くんだろうか?それが最近の疑問だ。
それでも、こんなことでお仕事の役に立つならいいかなって最近思うようになった。
それくらい、隊長さんって仕事の量が半端なく多いんだよね。
それも街を守る守備隊ならではなんだけど。
守備隊は、街の警護だけじゃなくて消防や救急病院の役目も担っているから、回ってくる案件が大量にある。
しかも、北の守備隊のある北地区はルシェモモの街の最大地区だ。
街の警備やその他に関する問題はクルビスさんの統括する戦士部隊の担当だけど、住むひとが多ければもめ事もおおいみたいで、工房狙いの泥棒はもちろん喧嘩や言い合いの陳情書などもあるみたいだ。
いつかのルイさんとカバズさんみたいなものかな。
職人気質のひとが多いから、住民の皆さんもこだわりが強いみたい。
そのこだわりが強いのが住居に関する問題だ。
ほとんどが半球の建物ばかりなのに、日当たりがどうの、風通しがどうのでもめるらしい。
工房なら、最初から建物の規格が決まっていて、振動や匂いが外に漏れないように工夫されているので、もめることはないらしいけど、住居は別。
予算によって、半球の大きさも材質も違うらしく、住宅街と定められた場所にならある程度の距離を保てば好きに立てていいらしいのだ。
表通りに近い場所は住宅やお店が整然と並ぶけど、中に入り込むとギュウギュウ詰めってことも普通らしい。
だから、風の通り道を無視して立てた場所からは「窓を開けても風が通らない。」とか、建物が密集してる場所からは「屋根に上っても、日の光が届かない」とかいう苦情が出てくるわけだ。
それを隊士さん達が1件1件調べて話を聞き、解決方法や代替案などを提案し、クルビスさんが決済を出している。
…これ、守備隊の仕事じゃないよね?
どう考えても、建築会社や不動産屋さんとかが気をつけて立てるか、きちんと説明したうえで契約書を結べばいい話だし。
街の規模が小さかった時はそれで良かったんだろうけど、これから先はもっと振り分けないと、雨季のようなテロが起こった時に対処できないと思うんだよね。
不動産に関する専門職が戦える必要ないわけだし、考えてみても良いと思う。
いつか機会があったら、メルバさんに聞いてみようか。