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カウンターをデリアさんに交代してもらって、カイザーさんにことの次第を報告する。
カイザーさんは少し動くだけで音がすることに顔をしかめて、「シェリスさんが来たら開けさせて頂きましょう。端にご案内して下さい。ただし、シェリスさんに渡してはいけませんよ。」と指示を出して、通常業務に戻った。
荷物が来たからといって、すぐに取りにこれないひともいるので、シェリスさんが来るのは明日以降かもしれない。
その時に間違えないようにと、『注意!持ち主に確認』とエルフ文字で書いた紙を箱の上と横に貼っておいた。
それを見たデリアさんが「わかり易くていいですね。」と上と横に貼った紙をしげしげと眺めていた。
ああ。そっかこっちは文字がいくつか種類があるから、『上乗せ厳禁』や『逆乗せ厳禁』とかも色紙を貼って表示するんだっけ。
でも、エルフ文字は学校や職人の研修で最初に覚える文字だから読めるひとも多いし、共通認識のある言語で書いた注意書きは必要じゃないかなあ。
でないと、何かの拍子に間違えそうだ。
「他の荷物と混ざったら困ると思って。こういうので張ってはがせるパネルとかあるといいですね。」
「そうですね。それで、お客様に渡すときには取ればいいわけですし。」
そんな話をしながら荷物を仕分けていると、当のシェリスさんがやってきた。
きっと、お昼休憩になったから来たんだろう。
お昼の後にお昼休憩として、食堂やカフェが締まることは多い。
メロウさんの食堂みたいに、家族でやってるお店や他に従業員をやとっているお店は交代で休んで、お店は営業しつづけられるけど、個人の店は無理だ。
シェリスさんはその休憩中に荷物を取りに来たわけだけど、もしかしたらお茶の時間までに戻れないかもしれない。
シェリスさんが記入を済ませるとカウンターの端に案内して、カイザーさんに来てもらう。
キャサリンさんはカイザーさんの代わりにカウンターに行き、私はシェリスさんの荷物を取ってくる。
いつもと違う対応にシェリスさんは困惑しているようだ。
「あの?荷物に何か?」
「ええ。少しご確認したいことがありまして。ああ。ありがとうございますハルカさん。ええと、シェリスさん。こちらが受け取りの荷物に間違いないですね?…ああ、手は触れないで下さい。」
カイザーさんの説明に合わせて荷物をシェリスさんに近づけるけど、カイザーさんはシェリスさんに触れないように釘を刺した。
シェリスさんは戸惑いながらも、私が荷物を持ってきた時の音で何か感じたらしく、顔色を悪くしながら荷物の送り状の確認をしてくれる。
「間違いありません。私の書いた送り状です。」
送り状はお店から送ってもらう場合、自分で書かなければいけない。
だから、シェリスさんに確認してもらったのだけど、やっぱり本物かあ。
「そうですか。お気づきのことかもしれませんが、少々音がしますので、中の荷物を改めさせていただけませんか?」
ゆっくりとおだやかにカイザーさんがシェリスさんに尋ねる。
その落ち着いた対応に安心したのか、シェリスさんは頷いてくれた。
それを確認してカイザーさんと私で荷物を開ける。
結構厳重に布製の紐で縛っているけど、中はどうなっているんだろう。