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まあ、そんな不安はあっても目の前の仕事は待ってくれない。
荷物を移動させては魔素を流し込むのを繰り返してるうちに、お昼になった。
「終わった~。久しぶりに外で食べれます~。」
尻尾をゆらゆらさせながら、キャサリンさんが目を輝かせて当りを見渡す。
移動するのも困難なくらい荷物が積みあがってたのに、今は木製の床が見えている。
床が見えるだけで広々と感じる。
こんなに広かったんだなあ。
「本当に。久しぶりにここの床を見ましたね。」
しみじみと話すカイザーさんと嬉しそうに頷くキャサリンさんに目頭が熱くなる。
床も見えない状態がこの数か月ずっと続いてたんだよね。
そんなんじゃ、きっと食事に行く暇もなかっただろう。
屋台で買って、空いてる場所で食べるのが精一杯だっただろうなあ。
もしかしたら、食べる暇のない日もあったかも。
何だか涙が出てきた。いけない。魔素がとんじゃう。
それにしても、ちゃんとお役に立てて良かった。
私が最初に起動させた転移陣は無事荷物を届けて、その後も問題なく荷物を送ることが出来た。
それが昼までに終えられたのは、自覚はないけど、私が大量に持ってる魔素のおかげだ。
だから、連続で転移陣を起動させても疲れることなく、キャサリンさんとふたつの転移陣をフル稼働させて荷物をさばけた。
どう扱ったらいいかわからなかった大量の魔素が、こんなに役に立つなんて。
「ハルカさん~。何食べたいですか?ここら辺のお店ならどこも辛過ぎなくて美味しいですよ~。」
キャサリンさんが入口の方から声をかけてくる。
いつの間に移動したんだろう。きっと待ちきれないんだろうなあ。
カイザーさんと苦笑しつつ、追いかける。
この転移局では忙しい時に個々で軽食を取る以外、揃ってご飯を食べにいくことになってるらしく、今日からは私もそれに加えてもらう。
他の転移局では違うみたいだけど、少数で頑張るここでは、結束を固めるためにそうすることになってるらしい。
それで、今日は私の歓迎も兼ねて私が食べたい料理の店に連れて行ってくれるのだそうだ。
でも、この辺のは屋台のご飯しか食べたことがないので、どういう料理があるか知らないんだよね。
ここは素直に聞いてみた方がいいかな。
「あまり街の料理を知らなくて。キャサリンさんのおすすめはありますか?」
「う~ん。そうですねえ。じゃあ、メロウさんの所の冷製パスタ食べに行きませんか?暑くなっていくこの時期だけのメニューですし。それに、あそこは技術者の方がお客さんに多いから、今頃は席が空き始めてますよ~。」
冷たいパスタかあ。
式の時に少しだけ分けてもらったなあ。美味しかったのを覚えてる。
あれとはまた違う味なのかな。
メロウさんのお店では結局ジュースしかご馳走になれなかったし、エルフの食堂のメニューっていうのにも興味あるなあ。
「美味しそうですね。じゃあ、是非そこで。」
さあ、ご飯だご飯!
魔素も一杯使ったし、たくさん食べるぞ~!