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お昼前になると、荷物の引き取りが多くなる。
さっさと荷物を受け取って、お昼はゆっくりしたいのかな。
もしくはお昼が終ったらすぐに作業に取り掛かりたいのかもしれない。
技術者さんが多いしね。
そんなことを思いながら、私はデリアさんと交代してカウンターについていた。
最初の数日は、私が座るとお客様がこっちに殺到したのだけど、今では、普通に並んでくれるようになって、カウンターの仕事が出来る。
これも、カイザーさんが心をこめて皆さんに『お願い』してくれたおかげだ。
あの時、にこやかに話すカイザーさんの後ろに般若が見えた気がしたのは気のせいだと思うことにしている。
「あの…。これとこれとこれを送ってください。後、荷物の受け取りをしたいんですけど…。」
荷物を端から裁いていると、トカゲの一族の男性がその腕に一抱えもある荷物をどどんっと置きながら、ついでにと、受け取りの申請をノートに書く。
その黄色い腕に見覚えがあって顔を上げると、ここ最近でよく知った顔に出会った。
「カバズさん。もうお身体はよろしいんですか?」
「ええ。その節は、ご迷惑おかけしました。すっかり体調も良くなって、2日前に仕事に復帰してもいいって許可が出たんです。」
本人の言う通り、すっかり元気になったようで、魔素も安定してるしとても穏やかだ。
今日は仕事の納品じゃなく、コンクールへの作品の提出に来たらしい。
送り状には『染模様コンクール』やら『しばり模様大会』等々、出場する大会の名前が書かれている。
染物といっても、カバズさんが参加するのは模様を競う大会みたいだ。
でも、最後の『ヘビ模様大会』ってなんだろう…。
気になる。でも聞けない。まだ、後ろにお客さん一杯いるし。
「良かったですね。」
「あ。カバズさぁん。元気になられたんですねぇ。良かったぁ。心配したんですからぁ。もう無茶したらだめですよぉ?」
浮かんだ疑問はなかったことにして、まずはカバズさんの復帰を喜ぶ。
そこに、キャサリンさんが荷物を受け取りに来たついでに声をかけてきた。
建前では徹夜で魔素のバランスが崩れて倒れたことになってるから、それを元にして今の発言になったみたいだ。
まあ、実際、事件の前は徹夜してたらしくて、それについてもキャサリンさん心配してたしなあ。
魔素の暴走がなかったとしても、染物は危ない薬品も使うそうだから、徹夜で集中力のなくなった頭で扱っていたら、別の事故が起こっていたかもしれないってメルバさんに教えてもらったから、余計心配しただろう。
「ああ。もう徹夜はやめたよ。ちゃんと寝たら、結構いいものが出来たんで、それも出してみることにしたんだ。」
そう言ってカバズさんが指示した箱には『ヘビ模様大会』と書かれていた。
やっぱり気になるなあ。この大会。
模様ってあるから、染め模様の大会なんだろうけど…。
ヘビ柄を競う大会なんだろうか?
「そうなんですねぇ。あ。これがカバズさんの荷物ですぅ。ちょうど今届きましたぁ。」
キャサリンさんに差し出された荷物を見て、一旦、『ヘビ模様大会』は頭から除けて、仕事をこなすことにする。
たくさん聞きたい話はあるけど、まだまだ後ろにお客様がいるし、ちゃっちゃとやりますか。