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クルビスさんを見送って中に入ると業務開始だ。
まずは簡単に掃除。
カウンターの上を拭いて、転移陣の部屋に砂やホコリがたまらないよう掃き掃除する。
この時の箒もどきが便利で、マメ科のつるを棒にくくりつけただけの簡素なものなんだけど、ちょっと魔素を流せばつるがべたべたして、砂粒やホコリくらいならひっつけちゃうんだよね。
それでいて硬さもあって丈夫だから、ひっつかないくらいの砂利なんかはちゃんと掃き出せる。
流しこんだ魔素を止めれば普通の箒に戻るから、ごみ箱の上で手でかるく払えばゴミは落ちるってわけ。
掃除機はないけど、異世界ならではの便利なものには驚かされる。
そうやって朝の掃除を終わらせたころに最初のお客さんがくる。
「おはようございます。うちの荷物届いてますかねえ?」
近くのカフェのおかみさんだ。
昼はお茶とジュースと軽食、夜はお酒と1品料理を提供している。
まだ行ったことないけど、近いうちにクルビスさんと飲みにいく約束もしている。
私がお酒をたしなむとわかってから、異世界のお酒についてもいろいろ教えてもらうようになった。
「おはようございます。ちょっと待ってくださいね…。ええ、来てますね。広場からです。今受け取りますね。」
笑顔で挨拶をして、転移陣の受信記録を調べて受け取りのために起動させる。
すると、すぐに荷物が送られてきた。
カフェのマークの入った箱をおかみさんに渡してサインをもらって業務終了だ。
こんな風に、朝早い時間帯は近くの商店や食堂などが朝市で仕入れた材料を送ってくるので、受け取り専門になる。
お客さんも大抵決まってるから、お店1つにつき1ページの顧客ノートに受け取りのサインをもらって、それで済んでいる。
受け取りのための顧客ノートは数冊あって、青いノートが朝用で3冊、黄色いノートが昼用で5冊だ。
昼用は夜に屋台を出すお店も入るから、店の数が多くてノートの冊数も多い。
それ以外のお客さんは個人用の緑のノートに書くことになっている。
個人での利用は、受け取り人の名前はもちろん、一族の名前に一番面積の多い色まで書くことになっている。
これは送る時に荷物に貼る送り状に同じように書かないといけない。
送るときは、それ以外におおまかな中身の情報や逆さま厳禁などの運ぶ際の注意事項、送り主の名前ももちろん必要だ。
お店なんかの決まった顧客なら荷物も大体決まってるし、すでにこちらのノートに記載されてるから送り状を確認して受け渡して終わりだ。これは楽。
個人の場合は、送り状と受付で書いてもらった荷物の情報とを照らし合わせて、さらには受け取った本人に確認してサイン貰ってやっと受け渡しが終了する。
ああ面倒くさい。仕方ないけど。
宅配と違って、自分から荷物を受け取りにこないといけないシステムだから、間違って荷物を渡してしまわないようにするための措置らしい。
そりゃそうだよね。家名の無いこの世界で、同姓同名なんていくらでもいるだろう。
その代わり、手続きに時間がかかるので、個人の荷物は受け取り時間が決まっている。
お昼休憩の前後2時間ずつ、朝の9時から11時と、昼の12時から14時までだ。
短い気もするけど、個人のお客さんはその時間帯に荷物を送りに来ることが多く、ついでに荷物の受け取りを済ましてしまうのでこれで良いらしい。
まあ、人手が足りないから、来てくれる時間が決まってるのは助かってるんだけどね。