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「ウワサだけが出回って、こんなことになったんだな。」
「表立って言えねえもんなあ。派手にやるとクルビスの怒りを買うし、下手すりゃルシェリード様の不況まで買うし。それなら『うちも良い所ですよ』アピールすることにしたんだな。途中で転移局を移ることはよくあるしなあ。」
へえ。転移局って途中で勤務先移れるんだ。
まあ、勤務期間が100年単位だし、術士の意志がこれだけ反映される人事なら、そういうこともあるのかな。
だから、遠回しに「良い所」アピールから始めたと。
それで、気に入ってもらって、自分から移動を申し出てもらおうと。
うわあ。気が長いっていうか、回りくどい。
いや、表立っての理由が筋が通ってるから、こんな絡め手できたんだろうけど。それにしてもねえ。
これなら、昼間来た転移局のひとの方がまだ理解できる。
こんなのがこれからも届くとしたら、面倒だなあ。
「でも、これがあれば、各地域の名物がひと目でわかって便利だぜ。ハルカ。もし、いらないなら、このチラシ貰ってもいいか?ファイルして、転移室の待合室に置いときたい。」
私がこの先のことに頭を悩ませていると、シードさんから思わぬ申し出をされる。
ああ。そっか。いろんなお店について場所とか情報が詳しく乗ってるもんね。
特に食べ処について良く乗ってるから、他の地区にお仕事に行くときに便利だろう。
変なウワサ流れても困るからどうせ使わないし、有効活用してもらおう。
「ええ。どうぞ。使いませんし。」
私が快諾すると、シードさんは礼を言って観光チラシを集め始める。
集める手伝いをしながら、クルビスさんも関心していた。
「よくここまで調べたものだ。地図まで詳細に…。確かに、これだけ詳しく乗っていると、他の地区に行った時に便利だな。食べる場所を探す手間が省けるし、隊士の楽しみにもなる。」
「だよなあ。これ、術士部隊が喜ぶんじゃねえ?北は術士の貸し出し多いしなあ。」
「そうだな。キィが喜びそうだ。」
「いやあ。キィならもう知ってるんじゃね?」
クルビスさんとシードさんが笑いながらチラシを片していく。
あっという間に封筒とチケットとチラシの束に分けられた。
早送り見てるみたいだった。
きっと動体視力や身体能力が違うからだろうけど、目が回りそう。
私には無理だな。
あ。チケット残っちゃったな。これも使ってもらおうか。
「このチケットも良ければ使って下さい。私は使わないので。」
「おお。ありがとう。でも、このチケット場所指定のやつだろ?番号ついてるし、隊士が行ったらどっかのお偉いさんと会うことにならねえ?」
「ありそうだな。申し込みで日時と名前は必要だし、劇場なんかも特別席だ。隊士の体色は濃いから目立つし、行った途端に責任者が出てきたりするかもな。」
言われてチケットを観察すると、たしかに席番号らしきものが端っこに書かれている。
こういうのって数が出回るものじゃないし、それを持ってるってことは特別だって思われそうだな。
隊士さんは街のひとに混じるとすぐにわかるし、街の中ではエリートの職業だ。
誰でも繋ぎを持っておきたいだろう。
うわあ。じゃあ、私かクルビスさんの名前で予約したら、そこにたまたま居合わせましたって感じで、各地域の転移局の責任者とばったりお会いしたりとか?
それで、何とも遠回しにお誘いを受けると。面倒くさいなあ。