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執務室に入ると、シードさんが書類仕事をしていた。
クルビスさんが外に出ていたから、代わりにやっていてくれてたんだろうか。
だとしたら、申し訳ない。
でも、シードさんは気にした風もなく、明るく「おう。おかえり。」と出迎えてくれた。
「うわあ。それもしかして、全部かよ?」
「ああ。今日届いたほとんどがハルカ宛てだそうだ。」
「はあ。ああ。ここ座るといい。使ってくれて大丈夫だ。」
私が抱える手紙の束を見て呆れた後、シードさんがクルビスさんの執務机の前の席を示してくれる。
クルビスさんの膝抱っこされつつ手紙を開けると、中から出て来たのは手紙と「西地区北部おすすめスポット!」と書かれた紙だった。
「これは…。」
「美味しい食堂ランキングか…。」
「お。何それ?気になる。」
いやいや。クルビスさんもシードさんも何真剣に見てるんですか。
お仕事再開して下さい。
シードさんも手を止めなくていいですよ~。聞いてないけど。
ちなみに、手紙の方もチラシ同様、各地域の見どころがわかりやすく、これでもかと情報が詰め込まれている。
『どうぞ、ご都合のよろしい時においで下さい。』
そんな言葉で締めくくられていた。
え。これが勧誘?観光のお誘いじゃなくて?
慌てて他の手紙も開封すると、どれも同じようなものだった。
鮮やかな多色刷りのチラシもあれば、劇場や食堂のチケットまで入っていて、手紙の内容も『是非、一度来て欲しい』といった内容ばかり。
「観光のお誘い、じゃないですよね?」
とにかく現地に私を来させようとしているみたいだし。
行ったら何かあるんだろうか。
「ああ。北西の転移局を選んだ理由に「ご飯の美味しい所がたくさんある」って言ったんだろう?たぶんそれでだな。」
え。それは、カイザーさんの元で働きたいって言ったら、「それなら、北西の転移局でなくてもいいのでは?」って意地悪な質問されたから、咄嗟に答えただけで…。
今まで忘れてたような質問なのに。じゃあ、それがこの観光チラシの山の原因ってこと?
「そういえば、そんなこと言いましたね。今まで忘れてました。」
私がポツリとつぶやくと、クルビスさんとシードさんは笑っていた。
私は北西の転移局の現状やカイザーさんが上司だってことを知って希望したのに。
何でどうでもいい情報だけが出回ってるかなあ。
他の地域の転移局の皆さんも何を考えてるんだか。