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恐縮しながらルドさんにお礼を言って中を見ると、料理教室の開催日時と場所が書かれていた。
とうとう始まるんだ。
気軽にスイーツを楽しみたいという気持ちだけで突っ走ってきたけど、他人に何かを教えるなんて生まれて初めてだ。
期待と緊張にゴクリと喉をならす。
「大丈夫だ。ハルカなら出来る。」
ふわりと温かい魔素に包まれて、緊張していた身体がリラックスしていく。
うん。どうなるかわからないけど、精一杯頑張ろう。
気を取りなおして、ルドさんおすすめの海鮮焼き飯を受け取って席につく。
タラコを使った、異世界初日に食べた私の好物のひとつだ。
青紫色のタラコなんて最初は食べていいものか悩んだけれど、今ではこれくらい可愛いものだ。
食べ物より飲み物の方がもっとすごい色してるもんね。
クルビスさんの持ってきてくれた木の実ジュースなんて、ビリジアンだし。
グリーンティーというには青っぽくて、不透明な感じが絵の具っぽい。
これで味は桃のジュースなんだから、異世界はまだまだ不思議な食べ物があるんだろうなあ。
そんなことを考えていたら、あっという間に食べてしまったクルビスさんが待っている状態に。
私も食べるのは早い方なのに、クルビスさんには勝てたことない。
やっぱり口の大きさの違いだろうか?
首を傾げながらもせっせと夕食を平らげて、クルビスさんの執務室兼、寝室のある10階に移動を始めると声をかけられた。
事務のカウンターにいた隊士さんだ。戦士部隊の数少ない女性隊士さんのひとりだ。
「クルビス隊長、ハルカさん。おかえりなさい。ちょっとよろしいですか?」
そう言って、両手に抱えた紙の束を差し出してくる。
うわあすごい量。メールが当たり前だった私にとって、束になった手紙は初めて見るものだ。
「全て、ハルカ宛てか。」
「はい。今日の便の大半はハルカさん宛てでした。」
え。私宛てなの?
こんなにたくさん何処から。
「ありがとう。ハルカ受け取れるか?」
ええ。いつもながら、クルビスさんがお姫様抱っこしてるから両手も膝の上も空いてますよ。
隊士さんにお礼を言って手紙の束を受け取ると。ずしりとした重みを感じた。
一体何10通あるんだろう。もしかしたら100通超えてるかもしれない。
料理教室に関する問いあわせだろうか?
でも、そちらはウジャータさんが引き受けて下さってるし、開催の日時だって今日受け取ったばかりだ。
決まれば一斉に公開し、参加者には通知が送られるはずだからここに来るのはおかしいだろう。
「着いたぞ。座って中を見ればいい。勧誘の手紙ばかりだと思うが。」
頭をぐるぐる悩ませていた私にクルビスさんが声をかける。
あれ。いつの間に10階に。
それに勧誘の手紙って…。
もしかして、これ各転移局からのお誘いの手紙なの?これ全部?