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いつも身につけている身分証にもなるカードを、薄紫の手のひらサイズの箱型の装置に近づける。
これでお買い物は完了だ。
屋台は値段が決まってて、かざすだけだから、会計も早いよね。
カードの読み取り装置も簡易タイプの小さなものですむし。
食堂みたいな大きめのお店には、20cmくらいの立方体の置き型の装置が置いてある。
値段の打ち込み機能や割り勘機能もあって、職場の昼時にはよくお世話になっている。
「はいよ。祭り用3つね。今日は奥に屋台がたくさんあるよ!楽しんどくれ!」
「ありがとうございます。」
アニスさんが焼きそばを受け取ると、おばさんが目を細めて見送ってくれる。
情報通り、奥にはまだまだ屋台がズラりと並んでいる。
「次は何を買いましょうか?」
「甘いものが良いですね。」
りんご飴ならぬ、フルーツ飴とかないかな。
もちろん、異世界な屋台ものも大歓迎だけど。
「あ、なら、あちらに行きませんか?知り合いの店があるんです。」
アニスさんの案内で、奥に進むと人だかりが見えた。
え?前に進めない。うわ。ジャンプして、屋根を移動してる人がいるんだけど。
「ああ。ちょっと遅かったですね。この先に連れて行きたかった飴細工の屋台があるんですよ。今は、細工を披露する時間帯みたいですね。しばらく待ちましょうか。」
飴細工?あの屋台で売ってる、アニメキャラの形に細工したやつ?
元ネタあー兄ちゃんだな。
しかも、細工を見せるってことは、鳥とか、伝統的なデザインの飴細工なんじゃないかな?
うわあ。小さい頃、一度だけ見たことあるけど、あれ楽しいんだよね。
こねて、伸ばして、ハサミでチョキチョキチョキって切っていけば、いつの間にか鳥になってるの。
柔らかい飴だから、すぐ食べなきゃいけないんだけど、もったいなくて、家に持って帰ったら、変形しちゃって。
妹は要領が良かったから、さっさと食べてしまっていたけど、私は泣いちゃったんだよね。
でも、あー兄ちゃんに「飴なんだから、どうせ食べたら溶けるだろ?」って言われて、それもそうかって思って、食べた飴は甘くて、素朴な味だったな。
「ふふ。懐かしいですね。」
「うちの一族が広めたんですが、今じゃ、祭りの名物ですよ。」
私の独り言に、アニスさんがウインクして答えてくれる。
アニスさんは私の事情を知ってるから、あー兄ちゃんが伝えた飴細工を見せようとしてくれたんだろう。
元の世界にあったものと似た物が見つかると私が喜ぶから。
彼女は世話係なだけあって、私をよく見ている。
その気遣いには感謝しかない。
こっちの世界で、周りに恵まれてるなあ、って感じるのはこんな時だ。ありがたいなあ。