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次にきたのはレモン型のパイ包みだった。
色はオレンジで、真ん中がまん丸く膨れてて、気をつけないと突いたら転がってしまいそうだ。
「皮を割って、中身と一緒にお召し上がり下さい。外側は全て食べられます。」
割るんだ。なぜかスプーンが一緒に並べられたけど、これで割ればいいのかな?
真ん中にスプーンを突き立てると、パリパリと小気味良い音を立てて、パイ皮が破れていく。
中から湯気が立ち上った。
ポトフみたいなスープが入ってる。
ドロっとしたスープと大きめの野菜がたくさん。
スパイシーな香りが食欲をそそる。
パイ皮は下半分は分厚くて、内側は別の生地になっていた。
まさか、これがスープとは思わないから、私も周りも驚きの声を出しながら、一口食べた。
「あ、あんまり、辛くない。」
もっとピリ辛かと思ったけど、スパイスの香りが強いわりに辛くはなかった。
これなら、子供でも食べられそうだ。
辛い料理の多いルシェモモでは珍しい。
パイ皮の香ばしい香りと相まって、食欲をそそられる。
肉団子みたいなのもある。
みじん切りした野菜とつみれみたいになってるの、あっさりして好きだな。
「これは、何で出来ているのでしょう?全て食べられると聞きましたが。」
黄の一族の長のオルファさんが、不思議そうにスープを覗き込みながら食べている。
他の方たちも不思議そうだ。
私が知ってるのは、某チキンの有名チェーン店で、シチュー皿にパイ生地で蓋をするタイプだけど、全然違う。
こんなにパリパリしてなかったし、丸ごとパイで包まれてなかった。
下半分はスープでドロドロにならないんだろうか?
ある程度食べて、下半分にスプーンを入れる。
軽くスプーンを入れると、生地の弾力がスプーンを跳ね返す。
こんな生地あるの?
もうちょっと力を入れると割れたけど、しっかりした生地だなあ。
スープの具と一緒に救って口に入れる。
もちもちしてる。
え。本当にお餅みたい。
イシュリナさんの星くずの料理で、初めてお餅を食べたけど、他の料理に使ってるのは初めて見た。
色はオレンジだから、何か混ぜ込んでるのかもしれない。
食感も、お餅にしては固めだしね。
これならスープもこぼれないよね。
「これは私にもわかりません。『今までにない、新しいものを』と言って、調理師に任せましたが、中々上手く行かなかったようで、最後まで、この生地は出てこなかったんです。」
アースさんも知らなかったってことは、本当にギリギリまで試行錯誤してたんだ。
じゃあ、これ、正真正銘、この場が初のお披露目なんだ。
お餅はカメレオンの一族の食べ物だから、レシピを知ってるだけでも、かなり上のクラスの調理師さんなんだろうな。
レシピの数も少ないし、使い方だってあまり知られてなかっただろうから、苦労しただろう。