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「私とクルビスさんのおかげ、ですか?確かに北西の転移局で働きたいと希望しましたけど、今のお話だと難しいのでは?」
どうやって働けることになったんだろう。
わからなくて、困惑したままキャサリンさんとカイザーさんの顔を交互に見比べていると、今度はカイザーさんが説明してくれた。
私は勤務希望を書くときに、北西の転移局でというより、カイザーさんの元で働きたいと書いた。
それがかなり影響を与えたらしい。
術士の調子は精神的なものにも影響されるため、職場や上司と合う合わないは重要なことなのだそうだ。
そのため、カイザーさんの元で働きたいという私の意見は、北西の転移局で働くためにかなりの後押しになったのだとか。
そして、これが重要らしいのだけど、クルビスさんが私と離れるのと、多数の異性と接触するのを嫌がったらしい。
ドラゴンの血が濃いクルビスさんは、伴侶への依存が強い。それは雨季で証明済みだ。
周囲もそれをわかっているため、広場なんかにある大きな転移局は引き下がったし、北の守備隊から遠く離れている転移局も引き下がることになった。
丁度、蜜月に引っかかるかもっていうのも、タイミング的に良かったらしい。
お義父さまのフィルドさんの伴侶への執着ぶりは未だに有名らしく、蜜月では離れるのは無理と判断されたようだ。
つまり、皆が納得する大義名分が出来たんだよね。
そして、北西の転移局の問題に頭を抱えていた本部のごく一部の方々がこの話に乗って、クルビスさんと私の希望が合致する転移局として、北西の転移局にようやく術士がもうひとり派遣できたという訳。
あの蜜月がこんな所で役に立ってたなんて。
周りにうかつに視線をやることも出来なくて困ったけど、苦労したかいはあったみたい。
それに、雨季の前にカイザーさんに会えて良かった。
でないと、北西の転移局に勤務したいって思っても、もっと時間がかかったか、横やりが入っただろう。
「そんな事情だったんですね。じゃあ、あの時、カイザーさんが声をかけて下さらなかったら、私は今ここにいなかったかもしれませんね。」
しみじみと話す私に、カイザーさんもキャサリンさんも頷く。
事情を知って思い返してみると、すごい良いタイミングだったんだなあ。
それに加えて、カイザーさんの人柄の良さのおかげだろう。
あのデートの晩、私とクルビスさんとつながりを持とうと群がってくるひと達の中で、カイザーさんは礼儀正しくお祝いを言って引き下がってくれた。
術士は喉から手が出るほど欲しかっただろうに、そんなこと微塵も感じさせないで。
後から事情を聞いた時好感をもったし、「こういう人が上司ならいいなあ。」と素直に思ったのを今でも覚えている。
「我が転移局を希望して下さってありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね。」
「ホント、お願いしますぅ。他所に行っちゃ嫌ですよぉ。」
カイザーさんとキャサリンさんが改めて私に礼を取る。
そんなふたりににっこり笑って、「もちろんです。よろしくお願いします。」と礼を返した。