8
「あなた、ってぇ。私のことですかぁ?」
キャサリンさんも驚いて目を見開いている。
お客様が探してた術士って、キャサリンさん?
「お客様、こちらのキャサリンさんはお探しの術士ではありません。」
カイザーさんが珍しく強い口調で言う。
キャサリンさんの前に立ち塞がって、お客様を近づかせないようにしてる。
「で、ですが、以前はお1つで大量の荷物を転移させていたと聞きました。」
それならキャサリンさんだ。
何で私と間違えたんだろう。
「あのぉ。それはぁ。転移先が同じものがある程度溜まってから、一気に転移させてたからですぅ。それに、私、魔素の吸収や回復を早める訓練も受けてましたからぁ。休憩も小まめにとって回復してましたしぃ。私自身には、遠方に送れる程の魔素はありませんよぉ。」
カイザーさんの後ろからキャサリンさんが以前の仕事内容と自分の魔素について話す。
私がこの転移局に入った時、すごい荷物の中で黙々と作業をしていたキャサリンさんを思い出すなあ。
キャサリンの努力と作業の効率化でギリギリ何とかなってたんだよね。
別に魔素を大量に持ってたわけじゃないんだけど、お客様もそれをわかったのかガクリと魔素が落ち込んだ不安定なものに変わった。
気の毒だけれど、お客様の要望に応えられる術士はこの転移局にはいないんだよね。
騒動にケリがついたと言わんばかりに、ビドーさんがお客様の肩を叩く。
「ま、残念だけどよ。兄さん、その手紙急ぐんだろう?早く広場に行って、中央局に行こうや。」
中央局まで行けば、遠方へ送れる術士もいるだろうな。
最初からそうすれば良かったんだけど、一体、広場の転移局で何を言われたんだろう。
「で、ですが、それではもう昼前の入札に間に合うかどうか。」
入札?
その単語が出た途端、周りがざわつき始めた。
入札って聞くとオークションとか浮かぶんだけど。
方法は知らないけど、前金とかいる決まりだったりするのかな?
時間に遅れたらパァになる、とか?
だとしたら、大損だ。
様子から察するに、かなりお金を注ぎ込んでるみたいだし。
どんどん魔素が不安定になるお客様に、周りも不安そうになっていく。
「すまないが通してもらえないだろうか。」
どうしようかと困っていると、人垣の向こうから若い男性の声が聞こえる。
この声は、たしか中央局の偉い人の息子で、ええと、名前が。
「ギガ殿。」
そうそう。
前にうちに視察に来たひとだ。