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「そんな、ハルカ様に依頼なんてとんでもない!…あの、本当にハルカ様がこちらに?」
「そうです。ハルカさん、こちらに来て頂けますか?」
カイザーさんが身体をずらして私を呼ぶ。
行きたくないけど、何か誤解があるみたいだし、私の姿を見せた方が良いだろう。
「はい。」
荷物を預けてカウンターの方へ向かう。
うわあ。すごい人だかり。
ぎゅうぎゅうだなあ。
キャサリンさんが頑張ってくれてるけど、これは隊士さんが呼ばれるだろうなあ。
「黒の単色…ハルカ様だ。」
問題のお客様は、この辺りじゃ見ない濃い緑色の体色に紫の斑点が顔に散ったトカゲの一族の男性だった。
目をまん丸に見開いている。
どうやら、奥にいた私の髪色までは正確にわからなかったみたい。
カウンターが一番明るいからなあ。
奥の転移陣の周りがその次に明るいけど、間で荷物の整理をしていた私は見えにくかっただろう。
私だとわかってから、魔素が動揺して不安定になっている。
「み、蜜月なのでは。」
ちゃんとまだ蜜月だって知ってるみたいだ。
これは答えた方が良いよね。
「はい。まだ蜜月です。」
「何故。」
「兄さん、そりゃあ、野暮ってもんだ。お2つは街に必要とされてるから、努力なさって、それぞれで勤めを果たしておられるのさ。」
ビドーさん、良い感じに言ってくれたなあ。
ほとんどお母様のメラさんのおかげなんだけど。
「し、失礼しました!あの、ハルカ様に無理をお願いするつもりは全く無くて。ただ、こちらなら遠方まで送れる術士がいると聞いて来ただけなのです。」
「それについて、少々お話を伺ってもよろしいでしょうか?お時間は取らせませんので。ハルカさんはカウンターをお願いしてよろしいでしょうか?」
カイザーさんが濃い緑の男性をカーテンのある側に誘導しながら、私に指示を出す。
私がそれに頷くと、ビドーさんが問題のお客様の肩を押して、カウンター前を開けてくれた。
気になるけど、とりあえず荷物の受け渡しをしなくちゃ。
カーテンを閉めて、風の術式で声が聞こえなくなると、お客様たちも自分の荷物を思い出したらしく、我先にと、ノートに記入して荷物を受け取って帰っていく。
忙しくなる時間帯で良かった。
皆、気になるだろうけど、自分の仕事が遅れてるから、何も言わずに帰ってくれる。
昼から色々聞かれそうで憂うつだけど、道を早くあけないと、本当に隊士さんが来ちゃう。
あ、何だか知ってる魔素が近づいてきてる。遅かったかあ。
「ハルカ。」
はい。私は無事ですよ。大丈夫、大丈夫。
だから、その警戒して膨れた魔素をちょっと抑えましょう。皆んなビックリしてるから。