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お兄さんと外に出たデリアさんを見送って、また席につく。
今日は驚きの連続だ。
「ビックリしましたぁ。まさか、申請が通るなんてぇ。」
え。驚くところそっち?
キャサリンさんは興奮が冷めないみたいで、そのノリのまま申請が通ったことがいかに珍しいことか語ってくれた。
そもそも、北西の地区は街の端に出来た新しい地区で、当初の住人の数は今の5分の1くらいだった。
その数に合わせて、転移局の規模も小さ目に作られたんだそうだ。
当時は派遣されてるのは術士1人で、事務処理もそれで十分だったらしい。
これが1000年程前の話。
それが、だんだんと数を増やしていき、色の問題もあって他の地区からもひとが集まるようになってきた。
流通する荷物の量も増えたため、術士1人きりでは無理が生じるようになり、事務方の仕事をする人が欲しいと申請した。
そして、カイザーさんのように、交渉・事務方専門のひとが派遣されるようになった。
これが500年程前の話だ。はるか昔の話に聞こえるけど、この世界では少し昔のこと。
ここで、術士を申請しておけばよかったのだけど、事務方を申請したために「術士の増加は必要ない」という印象を与えてしまったらしい。
こうなると、次の申請が通るまで、時間がかかってしまうのだそうだ。
なにせ、転移局のお仕事は時間はきっちり決まっているものの、なかなかハードな上、優秀な術士は治療師や守備隊の術士に取られてしまうので、万年人手不足。
そのため、術士の派遣は本部がかなり渋るのだそうだ。
これはどこの転移局でも同じ対応らしい。
ただ、北西の地域は色の問題もあって、その後もどんどん移住者が増えてしまい、荷物も短期間で倍以上の数になってしまった。
そのため、荷物がさばききれなくなり、ここ数年は忙しい時期だけ術士を他から派遣する形で何とか営業を保っていたらしい。
キャサリンさんが派遣されたのは、それまで勤めていた術士さんがそろそろ引退を考えていて、後継者をと術士本人が申請したために、ようやくかなった人事なのだそうだ。
これは住民の嘆願もあってやっとかなったことらしい。
雨季の前、キャサリンさんがひとりで数か月も耐えたのは、もともと「いつかは自分ひとりで出来ないといけない。」とわかっていて、それが出来るように訓練していたかららしい。
「実家との約束ですしぃ。覚悟の上ですぅ。」て、笑って話してくれるけど、ブラックまっしぐらな生活だよね。
これ、笑って済ませていい問題じゃないよ。