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クルビスさんが名残惜しそうに最後のひと口を食べ終わると、ルドさんがこちらに元の干物を差しだしながら口を開く。
本格的にレシピに使われるんだろうか。
「ハルカ。」
え。私?
クルビスさんじゃないの?
「先程のソースのレシピは、少し変えても大丈夫だろうか?」
ああ。味が濃かったかな。
シーリード族は味覚が鋭いから、濃い味は苦手だもんね。
確認してみるとその通りで、私は構わないと了承する。
そして、ルドさんはさらに続ける。
「ありがとう。では、そのレシピで先程のソースを守備隊で正式に使わせてもらえないだろうか。」
生姜焼きのタレを守備隊で?
それはまったく構わないんだけど。
「はい。どうぞ。」
特に問題もないし、生姜焼きが食べられるなら、どうぞどうぞ。
私がそのまま返事をすると、ルドさんが肩の力を抜く。
「クククッ。ルド。たぶん。ハルカは無償でいいと思っているぞ。」
「な。とんでもない!ちゃんと正規の料金を支払う!」
ええ。別にいらないんだけど。
むしろ、遠慮なく使ってもらって、いつでも生姜焼きが食べられる状態にしてほしいんだけど。
「別にいらんって顔じゃな。」
「遠慮なく使っていいみたいじゃな。」
「むしろ、それで生姜焼きをいつでも食べたいといったところじゃの。」
「まあ、ハルカちゃんらしいの。」
「それがいいところじゃがの。」
「うむうむ。じゃが、一応貰っときなさい。皆が困るでな。」
長老さん達が私の考えを読んで、それを諌める。
何でわかったんだろう。顔に出てたかな?
「ハルカ、汁粉でもレシピ代はもらってるだろう?守備隊の正式なメニューに追加するには、きちんと手順を踏まないと出せないんだ。」
ああ。だから、形だけでももらっといた方がいいんですね?
守備隊って街の警察みたいなものだから、街のルールには従わないとマズいよね。
「そうなんですね。じゃあ、ソースだけですし、汁粉より少ない額でお願いします。」
衣食住の保証と身の安全を守ってもらってる私としては、正規の値段なんてとてももらえないけど、こうやって理由づけすれば、そんな大きな金額にならないだろう。
「少ない額…。ふ。では、それで話を通しておこう。」
私の返答にルドさんは驚いた顔をしたものの、クルビスさんを見て何か納得したのか、苦笑して頷いてくれた。
そして、メニューに加えるのが決まってから、昼食の時に他の隊長格の皆さんにも試食してもらうことが決まる。
あれ?普通に流してたけど、決まっちゃった。
他の隊長さんの意見はいいのかな?
「あの。決まってから食べてもらうのでいいんですか?」
「ああ。隊長格が揃ってることは珍しいからな。その場で手が空いていた者で粗方決めて、後で確認する方が多いんだ。」
「後でと思っていると、思わぬ事件で隊長格がほとんど出はらってしまうこともあるからな。それだといつまでもメニューが決まらない。」
私の疑問にクルビスさんとルドさんが答えてくれる。
そっかあ。皆さん忙しいもんねえ。
今まではたまたま揃ってたから、意見をその場で聞けたけど、それって珍しいことだったんだなあ。
私は、今さら知った新事実に驚きながらも納得した。