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「あの、甘辛いたれにつけこんだものを干すのは難しいでしょうか?故郷に一夜干しというタレをつけた干物のがあるんですけど、ベタベタするので、こちらだと、保存とか虫とかもちょっと気になって。」
私の質問に長老さん達が顔を見合わせる。
無理かなあ。干しただけでもどれも美味しいけれど、タレのついた一夜干しがあればさらにバリエーションが広がると思うんだよね。
「そういや、むかーしに、長がそういう味の干物を再現されようとしたことがあったの。」
「しかし、商品化は上手くいかんかった。味は良かったんじゃが。」
「ミリンがどうにも上手く乾かなくての。ハルカちゃんが言う通り、虫や持ち運びの問題が解決せんで、そのままじゃ。」
まさかのミリンがネックになるとは。
う~ん。じゃあ、一夜干しは無理かなあ。
「…タレが甘いのなら、砂糖は使えないのですか?」
私たちが諦めムードにルドさんからの質問が空気を変える。
お砂糖かあ。ミリンとお砂糖って同じように使うもんだし、出来なくはないかなあ。
「そうじゃのう。」
「砂糖が出来たのは、その後じゃったし。」
「一度、やってみてもいいかもしれん。」
うん。べたべたするのは避けられないと思うけど、それはお砂糖の量を調整すれば、みりんよりは乾きやすいかも。
でも、空気の循環の問題もさっき話題に出た所だし、時間はかかりそうだなあ。
「ただ、甘辛い、というのがどうにもわかりません。深緑の森の一族のレシピの煮魚のような味ですか?」
ルドさんがお皿に乗った赤黒い干物を差出ながら、さらに聞いてきて、今度は私と長老さん達で見つめ合う。
干物の甘辛いと煮魚の甘辛さはちょっと違うけど、和風な味って意味なら合ってるかなあ。
甘辛いって、こっちではあまり浸透してないってことなのかな。
そういえば、クルビスさんもすき焼きの説明した時、拒否反応出てたよね。
とすると、話を進めるには、私の言う甘辛い味を知っててもらう方がいいだろうから、一夜干し以外で甘辛いレシピもあった方がいいかも。
う~ん。きんぴらとか、あ、干物なら、お正月の田作りとか?
あれなら、手間はかかるけど、保存のきく食べ物だし、干物にも合う甘辛味を知ってもらえるかも。
豚肉味の干物には、生姜焼きのタレをつけて食べてもらってもいいよね。
「じゃあ、田作りでも作りましょうか。一夜干しじゃありませんけど、小さな干物の魚を甘辛いタレにからめて食べるんです。新年のお祝い用の縁起物なんです。あと、さっきの干物も、あれに合う甘辛い味があるので、それをつけてみませんか?」
どうでしょう?なんて、聞く必要もなかった。
長老さん達がグッジョブとばかりに親指を立てて笑っていた。
もう慣れたけど、違和感は消えないなあ。
あーにいちゃんめ、エルフ達に他に何を教えてるんだろう。
乾いた笑いで流しつつ、ルドさんが炙ってくれた赤黒い干物を一口。
あ、こっちは蟹っぽい。