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カウンターに顔をのぞかせようとしたら、「ハルカちゃんや。」と、どこからか声をかけられた。
キョロキョロと見回すと、カウンターの脇の奥の厨房にいく通路の方に青、黄、赤の信号機カラーが見える。あれ。
「長老さま方。こんにちは。」
「こんにちは。リードの言う通りじゃ。元気そうじゃの。」
「うんうん。こんにちは。もう歩けるんじゃな。」
「おお、こんにちは。流石はハルカちゃんじゃ。」
挨拶すると、青い髪のコルトさん、黄色い髪のデルカさん、赤い髪のディランさんが順番に答えてくれる。
よく見ると、今日はいつものローブじゃなく、それぞれの髪色に合わせたエプロンを身につけていた。
後日じゃなかったっけ。
フェラリーデさんが言ってたってことは、通信で聞いて来たのかな。
「あれ、今日はエプロンなんですね。」
「おお。そうじゃ。」
「長さまがこられんでの。干物を代わりに届けに来たんじゃ。」
「もし、ハルカちゃんが元気なら、わしらで干物のことを教えようということになってな。」
干物のことを教えに来てくれたんだ。
助かるなあ。単に待ちきれなかっただけかもだけど。
「もう、奥の厨房に一通り運んでもらっとる。」
「後は、ハルカちゃんの味見待ちじゃ。」
「大丈夫そうなら、とりあえず、移動せんか?」
あ。そういえば、ルドさんは…。いないや。
カウンターの中にいる調理師さん達が奥を指さしてるから、ルドさんは奥の厨房で待っててくれてるみたいだ。
奥の厨房までたどり着くと、シードさんが呼びに来たので、クルビスさんとはここでお別れ。
隊長さんは忙しいもんね。長老さん達もいるから、大丈夫ですよ。お仕事頑張って。
渋るクルビスさんを無理やり送り出すと、厨房の中に入る。
すると潮の香りと山盛りのカラフルな小山が目に入ってきた。
「ルドさん。準備ありがとうございます。すごい量ですね。」
「元気そうだな。ああ。すごいだろう?ここらの海にいる魚は、食べられるものはほぼ全てあるそうだ。長老さま、大体で分けましたがこれでよろしかったでしょうか?」
はああ。食べられるお魚がほぼ全部って。それもすごい。
カラフルな小山は何か意味があるのか、長老さん達はルドさんにうんうんと頷いていた。
すると今度は、コルトさんが青いエプロンのポケットから何か取り出そうとする。
え。小さめだけど、500mlは入りそうな大きさのビンが出て来たんだけど、どういうこと?
エプロンのポケットって、どうみても手の平サイズなのに。
どういうこと?まさか、青いロボットで有名なよじげ…ゲフンゲフン。
いやいやいや。エルフだもの。
きっと、アイテムボックスとつなげてるとかそういうのだって。
私が思わず凝視してると、コルトさんはそのビンを指して、「何かわかるかの?」と聞いてきた。
何だろう。緑色のビンだから、中身は濃い色の液体だとしかわからない。
エルフの長老さん達がわざわざ持って来たってことは。
和食の調味料かな?
「醤油、ですか?」
「おしいの。「ミリン」じゃ。」
コルトさんが指を振って答える。
美老人って、こんな仕草もカッコいいんだな。て、そうじゃなくて。
「え。「みりん」ってあったんですか?」
「アタルが作っとったのとはちいと違うがの。」
「里では、煮物にはこちらを使うことも多いんじゃ。」
私の驚きに、デルカさんとディランさんが説明してくれる。
あー兄ちゃんの作ってたって、みりんまで作ってたんだ。
ホントに何でも作ってるなあ。
同じじゃないって、どんな味なんだろう?