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転移局を閉める準備をすると、昨日と同じく外で食べに出かける。
こっちでは、昼と夜は外で食べるのが普通のことだから、昼休みは食事処以外のどの店も閉まっている。
それに驚きもしたけど、新鮮な魔素を補給するのが必須とされる世界では当たり前なことだった。
だから、こっちには作り置きという概念がない。
油や塩、砂糖などの調味料系は魔素が飛びにくいから保存がきくけど、野菜や果物などはもちろん、穀物類だって、脱穀や製粉はその日に行ったものを使うのが一般的だ。
それだけ新鮮な物を使うから、この世界の料理はとても美味しい。
元の世界では生産地でもない限り、考えられない贅沢だ。
なのに、仕事が遅れるからとか、食事がついでとか、面倒だとか言うひともいる。
何を隠そうクルビスさんだ。
そのワーカーホリックなセリフを聞いた時は唖然とした。
私が積極的に食事に誘うことで、今では私と食事するのを楽しみにしてくれるようになったけど、私がいないとすぐに食べることがおざなりになる。
今日もちゃんと食べてるかなあ?
「今日はどこに行きましょうかぁ?」
「そうですね。よければ、メロウさんの所にしませんか?昨日のこともありますし、心配されているでしょうから。」
「そうですねぇ。ついでに、過労だったってことも伝えとかないとぉ。」
キャサリンさんの問いかけにカイザーさんが提案する。
確かに、昨日あれだけの騒ぎだったんだから、メロウさんすごく気にしているだろう。
表向きの事情しか説明出来ないのが辛いけど、それでも何も言わないよりマシだろう。
カバズさんが過労だったっていうのもホントのことだしね。
行き先が決まると早速メロウさんの食堂に向かう。
道すがら、昨日みたいに事情を聞きたがるひと達に捕まるかと思ったけど、そんなことはなかった。
どうやら、キャサリンさんのご実家が上手く情報を流してくれたようだ。
街の情報屋さんって所かな?すごい情報網持ってそうだなあ。
「いらっしゃいませ。まあまあ、ようこそ。あれからどうでした?」
食堂に行くと、メロウさんが席まで案内してくれる。
とても心配そうに昨日のことを聞いてきた。
「容体はすっかり安定してるそうですぅ。でも、過労だったらしくてぇ。しばらくは起き上がれないそうですぅ。」
「ずいぶん無理をしていたようです。」
キャサリンさんとカイザーさんが事情を話す。
メロウさんもカバズさんの無茶には心当りがあるのか、魔素が揺れたものの信じてくれたようだった。
「メルバさんが徹夜したようだと言っていました。徹夜は良くないから、他にもしているひとがいたら止めるようにって言われたんです。」
「まあ、また寝てなかったんですか?あれ程無茶はおやめなさいと言ったのに。」
私の話に大げさなくらいメロウさんが反応する。
それに聞き耳を立てていたらしい、常連さんたちも「それでか。」「無茶するなあ。」と言っていたから、わざと聞かせたようだ。
これで、少しはマシなウワサになるといいけど。
無理するのはいけないけど、今回は良い言い訳になった。