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次の日は青の一族のお披露目でも着たコーラルピンクのドレスにベールを被る変則的な恰好で、里の機織りを担当する女性達と交流した。
これは異世界仕様のワンピースを私が考案したというのを聞いた女性達のリクエストだった。
まさか、海の中までウワサが届いてるなんて。
初日にご挨拶した代表者の中にも女性はいたけど、機織りの女性達の方がにぎやかで明るい魔素で話かけてくれる。
「レースを部分的に使ってるのね。」
「布でお花を?可愛らしいこと。」
「うちの布がこういう風に使われてるんだねえ。」
ん?最後の感想は何だか違う。
うちの布って言った?
「下の布のこのキラキラ。うちの里で採れる糸でしか出せないんですよ。」
え。そうなの?
知らなかった。綺麗な光沢のあるコーラルピンクのドレスが魚人の里の布だったなんて。
機織りの女性たちは誇らしげに教えてくれる。
単純にシルクみたいな布かと思ってたけど、海の底にシルクはないよね。
「染めじゃ出ないんです。この色は。糸はクラーケンから作るんですけどね?」
クラーケン?
え。この布、クラーケンから出来てるの!?
クラーケンは異世界のイカだ。
メルバさんが最初にそう呼んだから定着した名前みたいだけど、魔物として物語で有名なクラーケンとは違うそうだ。
草食で大人しく、春になると群れで周回してくるらしい。
味はあんまり美味しくないものの、丈夫な繊維を持ってるので、利用されているそうだ。
特にクラーケンの三角の頭に着いたヒレのようなものは、キラキラとした光沢のある綺麗なコーラルピンクで、切っても再生するらしく、毎年何十匹か捕まえては、そのヒレの一部を切って、そこから糸にして布を作るのだとか。
海の中を回遊するためのヒレだからか、驚くほど軽くて丈夫な布が出来るそうだ。
ちなみに、クラーケンのコーラルピンクの光沢はちょっとしたことで失われるそうで、そのまま色を残した布を作るのは加工が難しいらしく、お祝いなんかの特別な時に使う布らしい。
トモミさんはそれを知ってて、この布にしてくれたのかもしれない。
すごく綺麗な布だから高価なものだろうと思ってたけど、思った以上に貴重なものだったみたいだ。
貰った時はとにかく綺麗なドレスに感動してお礼を言ったけど、今度お会いしたら、布のこともお礼言わなきゃ。
クルビスさんもこの布のことは知らなかったらしくて、とても驚いていた。
深緑の森の一族でも、メルバさんやフェラリーデさんは知ってたみたいだけど、アニスさんは驚いて目を見開いている。
隊士さんの中にも知ってるひとと知らなかったひといるみたいで、反応が別れていた。
こんなにきれいな布なのに、意外と知られてないみたいだ。不思議だなあ。