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麻のワンピースに着替えると、アニスさんにお礼を言って、部屋に戻ってもらった。
それから、クルビスさんにベールのことを報告する。
すると、目を見開いて驚いた後、視線が泳ぎ始めた。
アニスさんには、「クルビス隊長に聞いてみて下さい。」って、言われたけど。
「…クルビスさん。もしかして知ってました?」
怒りませんから、ちゃんと説明して下さい。
最近ずっと忙しかったのはよくわかってますから。
「前に大貝に行った時に、ハルカの体調を心配しているという話にはなった。何か対策をしたいと。ハルカはアンコを作っていたから、後で話すと言われて…。」
そのまま、メルバさんもクルビスさんも忘れてた、と。
うん。成る程。そういうことかあ。
怒る気はありませんよ。本当に。
すごくびっくりしましたけどね。
せめて、当日でも良いから教えてほしかったなあ。
誰か他の人からでも良かったのに。
「すまない。伴侶のことを他の者が話すのを俺が嫌がったからだ。」
ああ。しばらく一緒にいれなくて、ドラゴンの血がこういうところで出ちゃったのかあ。
そして、クルビスさんに遠慮して、誰も私に話さなかったと。納得。
「じゃあ、後でメルバさんにお礼言いに行きましょう。クルビスさんも、刺繍のことは知らなかったんでしょう?」
きっと、寝る時間を削って刺繍して下さったはずだ。
刺繍の細かさに、クルビスさんも改めて驚いているし。
「ああ。そうしよう。その、ハルカ、すまなかった。遥加の体調を心配して下さっていたことは、話しておくべきだった。」
確かに。それは教えておいてほしかったなあ。
最近は色々あって、プライベートな会話が少なくなってた気がする。お互い忙しかったとはいえ、それは今回の反省点だ。
私も、海の底に行くんだから、食べ物以外も、もっと相談していれば良かった。
クルビスさんの話や、フェラリーデさんから刺繍のことを聞く機会があったかもしれない。
「そうですね。それは教えて欲しかったです。大事なことは次の朝でも良いから、話すようにしましょう。私たち、新婚なのに、会話が足りませんでしたね。」
クルビスさんの言葉に、苦笑して頷きつつ、改善点を示す。
旦那様がものすごく忙しいのは、結婚前からわかってたことなんだから、お互い努力しないと会話は減る一方だ。
「ああ。俺も、これからは、その日のことをハルカに話すよ。…全部は無理だが。」
お仕事の関係は別にいいですよ。
一般市民には話せないこともあるでしょうし。
でも、うん。良いかもしれない。
私だけじゃなく、お互いにその日のことを話すのって。夫婦って感じがするなあ。