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メルバさんの甘味への執念が並外れていることを再認識すると、乾燥前の出来立てのゼリーをご馳走して頂けることになった。
ゼリー自体の魔素は極小なので、食事の後でも問題ないとスムーズに試食が始まる。
ワクワクしながら綺麗な石の器を受け取って、ひと口サイズの小さなゼリーに木のスプーンを入れる。
カツーン。
いつもの弾力が跳ね返るのを想像して、少し力を入れたら簡単に器の底にスプーンがぶつかる。
え。ゼリーってこんなに柔らかかったっけ?
「これは…。」
「なんて柔らかい。」
周りからも驚きの声があがる。
異世界のゼリーは結構弾力があるのが特徴だ。
だから、子供が食べる時は大人が細かくして上げる必要があるくらいなのに、出来立てのこれはとても柔らかい。
ゼラチンで作るゼリーみたい。乾燥させてないとこんなに違うんだ。
ひと口食べるとするんと喉に通る。
のど越しもいい。
「出来たてだけがこの柔らかさなのです。不思議なことですが。」
デランさんの言葉に皆が頷く。
本当に不思議だ。乾燥するかしないかでこんなに弾力や食感に差がでるなんて。
これはこれで受け入れられそうだけど、どうして乾燥したものしか地上に出回ってないんだろう。
メルバさんなら、生のまま保存する術式とか開発しそうだけど…。
「すぐに乾いちゃうんだよね~。術式で保存しようにも、保存が出来るまでに表面が乾いちゃって食感が変わっちゃうし~。」
保存する前に部分的に乾燥しちゃうのかあ。
それは難しいかも。
もしかして、このひと口サイズの試食は乾燥前に食べてもらうため?
空になった器を眺めながら、その端についていたゼリーが固まっているのを見付ける。
さっきまで瑞々しい破片がキラキラ光ってたのに。
こんなに乾燥が早いなんて。
他の方も気づいたのか自分の器や乾燥の台をしげしげと眺めている。
これじゃあ、生ゼリーを地上で食べるのは無理だなあ。
残念。新しい味覚に出会えたと思ったのに。
フルーツ果汁とかと混ぜてみたかったなあ。
「皆さまに出来たてを食べて頂けて、とても嬉しいです。」
生ゼリーに意識を向けていたら、デランさんがとても穏やかな魔素とともに静かに話す。
周りはそれを受けて、感謝を感じる魔素を出していた。
ここも私が知らない深い意味があるんだろう。
詳しくは後でクルビスさんに聞くとして、とりあえず、私は珍しいものを食べさせてもらえたことへの感謝を魔素で表しておこう。