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それからお茶をすることになって、転移局の現在の状況や流通の話になった。
やっぱり、術士が2人というのはとても楽らしい。
キャサリンさんが外でご飯が食べられたというのを喜々として報告する姿には、私が感じたようにそれまでの苦労が見えたらしく皆が笑顔で良かったと言ってくれた。
ただ、私の仕事の話になって、キャサリンさんとカイザーさんが大げさに褒めてくれたのには恐縮した。
まだ、1日しか働いてないのになあ。
そりゃ、仕事する人数が増えたら楽だとは思うけど。
「ハルカさんはこうおっしゃいますけどぉ。魔素の安定感も抜群ですしぃ、魔素を陣に満たすのも早いですしぃ。連続でやっても疲れた様子もなくって、他の転移局が聞きつけたら、引き抜きの話が来るかもしれません。でも、断って下さいねぇ。」
大げさに言いつつしっかり本音を混ぜるキャサリンさんに苦笑して、「職場を変えるつもりはありません。」とはっきり答える。
それにあからさまにホッとするキャサリンさんに、カイザーさんまでもが「良かった。」とつぶやくものだから、もしかして本当に引き抜きがあるのかなと内心首を傾げる。
「ハルカちゃん、自分が規格外だって自覚しようね~。普通の術士なら、半日も連続で転移やったらふらふらになるよ~。さすが黒の単色って感じ~?キャサリンちゃんはその辺の魔素配分上手いから出来るけどね~。普通は無理だから~。」
メルバさんに呆れたように言われて、思い出す。
周りの皆さんがすごいから忘れちゃうけど、私も「黒の単色」なんだった。
わかってはいても、未だに慣れない。
私にとって、黒髪は生まれてこのかた当たり前のものだったし、特別でも何でもなかったから。
「たしかに。俺もここの転移陣で練習に付き合いましたけど、あれだけ出来たら、どこの転移局も欲しがりそうですね。特に荷物の多い広場や中央に近い所は。近いうちに来るかもなあ。」
キィさんがメルバさんに同意して、フェラリーデさんもクルビスさんも「そうでしょうね。」と頷いてしまう。
え。ホントに引き抜きとか来るの?それも近いうちに?
「何とか阻止してみますが、まだ復帰できてない術士も多いですし、明日にでも接触してくるかもしれません。おひとつで行動しないようにして下さいね?誰か尋ねてきたら、必ず、キャサリンさんか私に教えてください。」
明日!?
いやいやいや。いくらなんでも早すぎませんか?
「それは十分ありえますぅ。それに、明日からカバズさんの事情を聞きにくるひと達も来るでしょうしぃ。忙しいかもしれませんけどぉ、絶対にひとつで対応しちゃだめですよぉ?教えて下さいねぇ?」
キャサリンさんも真剣に頷いて忠告してくれる。
頷いて、ひとりで対応しないことを約束するけど、不安になってくる。
今日の仕事だって、結構な量の荷物があった。
それ以外の目的でひとが集まったら…。明日の仕事、大丈夫かな?