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出発当日は日差しが強くて、ちょっと外に出たくないと思える暑い日だった。
風がふいても湿気を含んでてじっとりしていて不快だ。
陽球の設定は弱くしてもらっていても、さすがにこの暑さだとクルビスさんも自然に目が覚めるようで、朝の支度は楽だったけど。
それでも、早朝はまだマシな暑さなので、これ以上暑くならないうちにと急いでドレスの着付けとメイクをしてもらって海の傍の南地区へ出発した。
ちなみに、北のメンバー以外は南地区で合流することになっている。
メルバさんも南に直接行くらしい。
魚人の里へ行ける転移陣は港にしかないらしく、崖の上にある南地区の守備隊の本部ではなく、崖下にある港支部に直に飛ぶ。
前は、赤の一族とイグアナの一族のにらみ合いとかもあって、ゆっくり楽しむ余裕はなかったから、少し待つ間に窓から港の風景を楽しんでおく。
丸い家の窓や入口には紐に通した貝の飾りがいくつも吊るされていて、それがカチャカチャと軽やかな音を立てている。
窓から吹き込んでくる潮風は、磯の香りと湿気を含んで海が近いことを教えてくれる。
幾つか煙突のようなものが突き出てる大きな半球の建物があるけど、もしかしてあれは染物の工房だろうか?
建物は雨季の間は半球になるようになってるから、あの煙突は収納式なんだろう。
工房が多いと染料の匂いなんかで気分を悪くするひともいるから、建物の密集地では工房に煙突は必須らしい。
これも南の景観の特徴のひとつだ。
そして、建物の先に見える銀の輝き。
あれがこの世界の海だ。
水の魔素は白。でも、海は多くの生き物を育むからか魔素が多く、白銀のような輝きを持っている。
だから、白を差別するルシェモモでは、海は白ではなく、銀だと認識されているそうだ。
私には銀というには白過ぎて、もう白でいいじゃないと思ってしまうんだけど。
それにしても、海の底ってどんな感じなんだろう。
これだけ白いなら、海の底も白いのかな?
でも。海の底だし、光は届かないだろうから、むしろ夜みたいに暗いのかも。
魚人の里の建物は海の鉱物で出来てるらしいけど、どんな建物なんだろう。
イメージとしては竜宮城みたいなきらびやかな感じだけど、もしかしたら、海の底の岩のような建物かもしれない。
「お待たせしました。海の転移陣の支度が整いました。」
南の隊士さんが転移の準備が出来たことを教えてくれる。
思ったより早かったなあ。
海の転移陣って特殊だって聞いてたから、もっと時間かかると思ってたんだけど。
今日はまだメルバさんに会ってないから、先に準備してくれてたのかも。