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鰆もどきのお刺身は生特有の上品な甘さがあって、するすると食べれた。
こちらでは魔素をたくさん含んでるうちに材料を使い切るから、これもすごく新鮮。
ほろりとした身に脂がのって、それに少し酸っぱいソースが絡んで絶妙だ。
こういうのならいくらでも入っちゃうなあ。魚人の里のお料理も楽しみだ。
こっちに来てから食べ物は贅沢してばっかり。
落ち着いたら新居に移って自炊する予定なんだけど、こんなに美味しいものばかりは作れないから困るだろうなあ。
ん?何だか視線を感じる。
ふと横を見ると、黒い塊が…。
「ネロ?」
「ブキッ。」
ビックリした。また大きくなったなあ。
成長期だからか、今は頭がもう私の腰くらいまで届く。
口もどんどん尖ってきてて、ギザギザの前歯が迫力だ。
珍しい。最近はあまり近寄ってこなかったのに。
あ。今日はクルビスさんがいないからか。
「ネロもご飯?」
「グッ。ギャ。」
私の質問にそうだと言わんばかりに頷くネロ。
最近、豚みたいな鳴き声以外に、ギャとかギとか濁った鳴き声を出すようになった。
声も甲高い音から低い感じになってきてるし。
この分だと、街中でみた恐竜のような姿になるのもあっという間だろうな。
「失礼するぜ。ネロ。訓練頑張ったから、今日は俺の果物つけてやるよ。」
我が子の成長にしみじみしていると、ネロの訓練を見てくれているシードさんが私たちの隣のテーブルの下に、山盛りの野菜と果物の大皿を持ってきた。
それを見てネロが嬉しそうに口をカパリと開ける。可愛い。こういう所は変わってないなあ。
草食だからか、口をカパリと開けるとノドに近い位置にある奥歯は少し平たい形になってて、最近は菜っ葉みたいな野菜も食べるようになったんだよね。
でも、果物が一番好きみたい。今も視線は果物に釘付けだ。
「訓練は順調ですか?」
「ああ。今日は隊士を相手にして、負けなかったんだぜ。これなら、立派なセパとして働ける。」
え。そんなに強くなったの?
ネロは頭がいいから、相手の動きを読めるっていうのは聞いてたけど、もう隊士さん相手にやり合えてるなんて。
どんどん強くなってるなあ。
強くて賢いセパは要人の移動にも使われるそうだから、この分なら私もネロに乗って街中を移動できるかも。
「それなら、ハルカ様の移動にも。」
「ああ。ネロが使えると思う。ま、クルビスの許可が出たらだけどな。」
リリィさんの質問に困ったように笑うシードさん。
そうだなあ。ネロにはいつか乗りたいけど、少なくともその時に蜜月が終わってないと無理だろうなあ。