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「そして、転移陣の手前、荷物の下に板がありますよね?可動式の板なんですけど、それに仕分けた荷物を載せてここまで運んできま~す。色ごとに荷物の行き先がわかれてるんですよ~。これに乗ってる荷物の量が一度に運べる量でもあります。」
キャサリンさんの指し示してくれた先には、あちこち剥げた色とりどりの台車だった。
こちらの台車は太目の蔦のような枝のような木材を組み合わせた背の高い枠で囲まれていて、倉庫なんかで見る搬送用の台車に似ていると思った。
もしかしたら、メルバさんから伝わったあー兄ちゃんが元ネタの便利グッズなのかもしれないけど、便利なのには違いない。
指示された台車を転移陣の上に移動させ、巻き込まれないよう距離を取る。
「じゃあ、いきますね~。」
キャサリンさんが転移陣に手を付くと、床に掘り込まれていた模様がボウっと光り始めた。
魔素を流し込んでいるんだ。スムーズに光が転移陣の式を満たしていく。
転移局への勤務が決まってから、お世話になってる街の守備隊の転移陣で発動の練習をさせてもらってたんだけど、これって結構難しいんだよねえ。
一定に少しずつ流し込まないと、対象物、この場合は預かってる荷物だけど、それに負荷がかかってちゃんとした状態で届かないらしい。
私は果物を籠に持ったもので練習したけど、最初に転移させた果物は転移先でつぶれてジュースになっていたらしい。
そんなのがひとだったりしたら…ぶるぶる。
だから、少しでも乱れがないように徹底的に訓練したし、しばらくは守備隊でクルビスさんにも練習を見てもらえることになっている。
最初は物しか運ぶことはないからって言われてるけど、緊張するなあ。
「はい。これくらい魔素で満たせば発動出来ます~。後は壁の装置で行き先を設定して魔素を流して~、あ、これは勢いよく流し込んでも大丈夫ですよ~。」
流し込まれた魔素の量をしっかりと記憶に刻みこみながら見学していると、キャサリンさんが丁寧に転移陣の発動の説明までしてくれる。
この辺は私が転移陣の範囲の外、北の辺境の出身だって言われてることが大きいだろう。
私が異世界出身なのは街のトップたちしか知らない極秘事項だし、悪目立ちしたくない私としてはその方がありがたいと思っている。
実際、こうやって丁寧に説明してもらえるしね。
キャサリンさんの操作をメモに取りつつ、また魔素の量を確認する。
う~ん。これくらいなら調整できるようになったから大丈夫かな?
「では、いきま~す。」
キャサリンさんと下がると、転移陣が発動し始める。
まるでアトラクションみたいだけど、現実に起こっている現象だ。
術式と名前は変わってるけど、中身は魔法。
私がこれからこの移動の魔法を毎日使うようになるなんて思いもしなかったことだ。