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話の流れて、せっかくなのでと、小さい鍋を使って餡子を作ることになった。
大きい鍋で失敗したことをルーシィさんはずいぶん気にしていたようで、伴侶のアルディアさんが一緒に作る約束をしていたのだそうだ。
それなら、私に作ってる所を見てもらったらどうかとイシュリナさんが言い、是非にとお願いされて、現在は調理場。
アルディアさんは練習してくれていたらしく、流れるように餡子を作っていく。
さすがプロというか、アルディアさんは私より断然手際が良いので言うことは何もないくらいだ。
ルーシィさんはその動きを食い入るように見ていた。
ちょっと作ってみるって雰囲気じゃないなあ。
すっごいピリピリしてる。
やがてアルディアさんが鍋を火からおろすと、ルーシィさんの様子も先程の穏やかなものに戻った。
アルディアさんがさじにすくった餡子を食べて満足そうだ。ラブラブだなあ。
「ハルカ様。いかがでしたでしょうか?」
え。ここで私?
いや、いかがも何も完璧でしたが。あ、でも、ちょっとシメの塩が多かったかも。
「そうですね。塩が多めだったようですが、しょっぱくないですか?」
「あ。普段の練習ではもう少し少なくしてます。ただ、私には塩はこれ位の方が食べやすくて、今回はこの量に。ルーシィには、私の好きな味を食べさせることを約束してるので。」
「だって、今度は私が作ってアルに食べてもらうのだもの。一族ごとの味覚の違いは教えてもらわなきゃわからないわ。」
大事な伴侶のために味を覚えたいかあ。ラブラブだなあ。
ん?でも、ラブラブな雰囲気に流されそうになったけど、今、気になることを言ってたような?
「あら、シーマームとはそんなに違うの?里に行った時は特に感じなかったのだけど。」
イシュリナさんが質問してくれて、気になっていたことがハッキリする。
そうだ。シーマームの味覚が違うなら、手土産のことも考え直さなきゃ。
「いえ、シーマームの中でも味の好みにかなり差がありまして。俺の一族は塩気がきついものを好むんです。でも、それだと他の一族の方には塩が多すぎるので、宴席の料理は好みの味付けに出来るようにしてるものが多いんですよ。」
「そういえば、塩やソースは振りかけたりつけたりして食べるものが多かったわ。」
ああそっか。シーマームだって、お魚に種類がたくさんあるみたいに、特徴の違う魚人が集まってるんだっけ。
シーリード族ほど一族ごとに数が多いわけじゃないし、海では皆が平等だという考えを持ってるから、どの一族も動く場合はシーマームの一員として動くそうだ。
でも、身体の特徴がなくなったわけじゃないから、一族ごとで味覚だって違うわけだ。
だから、食事では後付けの塩やソースで各自が味を調整するスタイルにしてるみたい。
だとしたら、シーマームの里長さまへの手土産はどうしようかなあ。
すでに味付けし終えてる餡子じゃ口に合わないかもしれない。