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「別にずっと寝ていろってことじゃないのよ?ルーシィ。お料理だってしていいの。ただね。大きい調理器具じゃなくて、家庭用の小さめの物を使って欲しいのよ。」
ルーシィさんの魔素の揺れを感じ取ったのか、イシュリナさんが優しく諭す。
大きい調理器具ってどれくらい大きいんだろう。
料理教室で使ったものは一般的な大きさだったと思うけど。
守備隊で見た大なべとかかなあ。いやいや、さすがにあれはないか。
「でも、小さいのだと持った気がしなくて。すぐに壊れますし。」
「我らは小さき力を使うのには向いておらぬからなあ。」
「だからといって、一族用の大なべは今のルーシィには重すぎますよ。あれだと、どうしてもお腹に力が入るでしょう?」
「う。…実は、鍛えるにもよさそうだから、かなり重くしてもらいました。」
調理器具の話だよね?
ダンベルとか重りとかの話じゃないよね?
鍛えるとか聞こえたんだけど、ドラゴンって鍛えるのが好きなのかなあ。
私、ドラゴンには知的なイメージを持ってたのに、もしかして脳筋…いやいやいや、そんな馬鹿な。
「ルーシィ。あの。良ければこれを使ってくれないか?」
「え。アル、これは?」
どうにかしてルーシィさんに重いものを持たせないようにと説得が続く中、アルディアさんがおずおずと布の包みを差し出した。
いびつな形をした包みをアルディアさんが解くと、中から出て来たのは片手鍋。
「君用に注文したんだ。他のはまだ出来上がってないけど、出来る限り丈夫に作ってもらった。これくらいならお腹の負担にならないって、長さまに確認してもらってる。前に話したことがあっただろう?うちの一族では子供が生まれる前に家にある道具を新しくするんだ。俺たちには調理道具が一番だと思って。」
へえ。シーマームではそんな習慣が。
勉強はしてるけど、知らないことはまだまだあるなあ。
シーマームは職人気質で、シーリード族みたいに料理人はもちろん、海産物の加工に、輝石の養殖とか何かを作る職に付いてるひとが多いそうだ。
だから、新しい家族が増えるたびに道具を新しくして祝うのかも。
「アル…。ありがとう。」
ピンクな空気再び。
仲良しさんだなあ。
「素敵な贈り物ねえ。良かったわね。ルーシィ。それなら水菓子が作りやすいわよ。」
「そうなんですか…。私、イシュリナ様に教えて頂いて作ってみたんですけど、焦がしてしまって…。大きい鍋は向いてないんですね。」
ルーシィさん、イシュリナさんに教わって作ってくれてたんだ。
嬉しいなあ。こうやって周りに広がっていってるんだ。
でも、初心者さんが大きい鍋で作るのは、確かに難しいかも。
均等にかきまぜ続けるって大変だし、お砂糖も焦げやすいからね。