6
落ち着いたルーシィさんの様子に周りがホッとしていると、外から何か聞こえてくる。
ここは部屋の入口には布がたらされているだけだから、外の声が良く聞こえる。
「あら。あなたの伴侶が来たみたいね。」
「え。誰が知らせたんでしょう。」
イシュリナさんが言うと、ルーシィさんは慌てたように入口を見る。
余裕がないのか、魔素が普通より大きく感じられて、私でも近づいて来てるのがわかる。
それでも、ルーシィさんの伴侶さんは、ルシェリードさんやフィルドさんのように極端に魔素が大きくないから、ドラゴンの一族じゃあないみたい。
立ち上がろうとしたルーシィさんをルシェリードさんが止め、代わりにフィルドさんが外に出る。
「もう少し静かに。今落ち着いた所だよ。」
「あ、あの。俺のルーシィは!?」
「無事だよ。君が魔素をもっと抑えたらここを通そう。」
穏やかに諭すフィルドさんの声に反応して、見知らぬ魔素が抑えられていく。
声といい、魔素の感じといい、何だか知ってるような気がするんだけど、気のせいかな?
クルビスさんを見ると、目を見開いて入口を見つめている。
私にはわからないけど、クルビスさんには相手がわかったみたいだ。やっぱり知り合いなのかも。誰なんだろう。
「失礼します。ルーシィ!」
「アル!来てくれてありがとう。」
入って来たのは、腕に小さなひれのついた真紅の鱗の男性だった。
鱗はあるけど、尻尾はない。シーマームだ。
私のシーマームの知り合いと言えばひとりしかいない。
料理教室に参加してくれたアルディアさん。
ルーシィさんの旦那様だったなんて。
クルビスさんも知らなかったようで驚いている。
「良かった。お願いだから無理はしないでくれ。君がいなくなったら、俺は消えてしまうよ。」
「アル…。ごめんなさい。」
一瞬でピンクな空気に。
ラブラブだなあ。
あ。クルビスさんが手をギュッと握ってきた。
うん。帰ったら私たちもいちゃいちゃしましょうね。でもここではダメ。
「よく来てくれたわ。さあ、立ってないで座って?もうすぐ長もいらっしゃるから、お腹の子も見て頂きましょうね。」
慣れてるのか、ラブラブな二人にイシュリナさんがお茶を淹れながら声をかける。
アルディアさんはそこでようやく私たちに気づいたようだった。
「ルシェリード様、皆さまお久しぶりです。この度は伴侶と子をお助けいただきありがとうございます。ご迷惑をおかけしました。」
「迷惑など思ってもいないよ。だが、ルーシィはもう少し自分の魔素を抑えるようにしなくてはな。母の魔素は腹の子に影響する。」
「とても危険な状態だったんだよ。長がいらしたら、すぐに見てもらおうね。」
「はい。すみませんでした。」
胸に手を当て感謝を告げるアルディアさんに、それにならって頭を下げるルーシィさん。
ルシェリードさんとフィルドさんからは心配そうな魔素が強く感じられた。
実際あのまま魔素をまき散らしてたら、お腹のお子さんに何かしらの影響があっただろう。
すでに何か影響を与えてるかもしれないし、早く見てもらった方がいいよね。
メルバさん早く来ないかなあ。
いつも転移で瞬間移動みたく来るのに、今日はどうしたんだろう。




