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「何でも何も。あなたの具合が悪いって聞いたから、お見舞いに来たのよ。孫の伴侶と一緒に。」
驚くドラゴンの女性にイシュリナさんがさも当たり前のようにウソをつく。
すごいなあ。魔素が全く揺れてない。
これぐらい出来なきゃルシェリードさんの奥さんは務まらないってことなのかな。
おっと。それより、件のドラゴンの女性が私をガン見してる。
「こんにちは。具合はいかがですか?」
「え。あ。」
「ほら、水菓子も持って来たのよ。」
「え!?」
混乱気味だった女性の視線が水ようかんの入った器に釘付けになった。
これ、ルシェリードさんにって残してあったやつだ。
目をランランと輝かせる女性に「お茶にしませんか?」と聞いたら、ぶんぶん首を縦に振ってくれた。
腕と肩の拘束は解かれたけど、魔素の乱れは収まってる。良かった。
周りもホッとした様子だ。
これなら普通に話が出来そう。
「さあ。座りましょうか。アリエス、準備して下さる?」
イシュリナさんの一言に嬉しそうに頷いてテーブルを持ってくるルシェリードさん。
それをクルビスさんとフィルドさんも手伝う。
周りのひとは片付けたり端に寄せてた家具を戻したら、一礼して部屋を出て行った。
お茶も頼んでおいたから、じきに来るだろう。
「はい。水ようかんよ。水菓子の応用で出来るのですって。」
「こ、これが。は。応用とは、私が食べて良いのでしょうか!?」
いやいや。水ようかん1つに大げさですよ。
あ。でも、レシピのことを気にしてるのかな?
「大丈夫です。水菓子と材料は同じものですし、作りかたもそう変わりません。料理教室でも教えてますから。」
「あ、で、では、頂きます!」
どうぞどうぞ。
さっき散らしてしまった魔素を補給して下さい。
お腹のお子さんにも良いですよ。きっと。
あれ。目を見開いて固まってるなあ。何で?
「美味しいでしょう?食べやすいから、今のあなたにはぴったりだと思うの。」
「何て、滑らかなんでしょう。口の中で解けるようです。」
初めての食感に驚いたみたい。
でも、お口にあったみたいだ。魔素が喜びにあふれてる。
ゆっくり味わうように食べる終わると、ドラゴンの女性の魔素はもうすっかり穏やかさを取り戻していた。
もう事情を聞いても大丈夫そう。
「落ち着いたみたいね。」
「あ。は、はい。ルシェリード様、イシュリナ様、フィルド様、申し訳ありませんでした。あの、その、水ようかん、とても美味しかったです。ありがとうございました。」
ドラゴンの女性は、ルシェリードさん達に謝ると、今度は私たちの方に向き直る。
そして、胸に手を当て、綺麗な礼をしてくれた。
こちらも礼を受けて、名乗らせてもらうことにする。
名乗りは先に名乗った方が魔素の消耗が激しいからね。
普通なら、立場的にはこっちが上でも、はるかに年上のドラゴンの一族の方が先に名乗ることになる。
でも、彼女はさっきまで魔素を消耗していたし、何より妊婦さんだもんね。
これ以上の魔素の消費は避けた方がいい。
お腹のお子さんに良くないから。
「喜んでもらえて良かった。失礼になりますが、ここは先に名乗らせて頂きます。シーリード族、トカゲの一族、北の守備隊の戦士部隊隊長のクルビスです。」
「伴侶の里見遥加です。どうぞ遥加と呼んで下さい。お口にあったみたいで良かったです。」
クルビスさんもそう思ったようで、先に名乗ってくれたので、私もその後に続く。
私たちの意図がわかったからか、ドラゴンの女性は縮こまって挨拶してくれた。
「いいえ。お気遣いありがとうございます。シーリード族、ドラゴンの一族のルーシィと申します。」
うん。魔素も安定してる。
申し訳ないって気持ちも伝わってくるし、大丈夫そうだ。