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大貝に到着すると、あっと言う間に奥の方にたどり着く。
ひ、久しぶりにクルビスさんに抱えられて走ってもらったけど、途中から顔を上げられなかった。
相変わらず、身体能力が尋常じゃないよね。
こういう時、人間とは作りが違うんだなあって実感する。
「ふう。さすが現役の隊士さんは早いわねえ。もう大丈夫よ。降ろしてくれる?」
やっと速度が緩まって顔を上げると、イシュリナさんはフィルドさんに背負われていた。
イシュリナさんもこのふたりの走る速度にはついていけなかったみたいだ。
作りが違うってさっき思ったけど、隊士さんはさらに違うってことなんだなあ。
自分の旦那様がその中にいるって思うと、何だか不思議だ。
「はい。私は先に入ってお義父さんに報告してきます。少し待ってから入って来てもらえますか?」
「お願いね。」
フィルドさんが向かった先には綺麗なグリーンに染められた大きな布が垂れ下がっていた。
ここではドアの代わりに布で仕切るのかな。
私も降ろしてもらって、周りを見渡す。
さっきみたいに皮膚がピリピリする。魔素がまき散らされてるからだろう。
人影を見ないから、きっと他のひと達は避難してるんだろうな。
私も黒の単色じゃなかったら気絶してたかもしれない。
「酷い魔素ねえ。こんなに無茶して、大丈夫かしら?」
イシュリナさんは顔をしかめて心配そうだ。
クルビスさんも険しい表情をしている。お母さんの状態が心配だなあ。
「子はまだ安定してないのでしょう?」
「そうなのよ。今が一番大事な時期なのに。だから里に戻りなさいって言ったのに。そろそろね。行きましょうか。」
イシュリナさんについて行きながら、ドラゴンの里について思い出す。
あそこなら、周りの余計な情報も入ってこないし、気候も安定してて果物も多いから、安心して産み月までいられるだろうな。
ドラゴンは魔素が多いから、出産も子育ても里でするって聞いてるけど、問題の調理師さんはここで出産するつもりみたい。
何か事情があったんだろうか。
「あらあら。どうしたの?」
びりびりと静電気が走るような空気の中、何でもないようにイシュリナさんが声をかけながら部屋に入っていく。
私とクルビスさんも後についていって、まず目に入ったのは綺麗な真紅の鱗だった。
きっと、このひとが例の調理師さんだろう。
今は他のドラゴン達に囲まれて、肩を押さえつけられている。
ああ。妊婦さんなのに、そんな乱暴な。
押さえつけてる手を払おうとしている彼女の腕には、バラの茎と葉っぱのような模様が腕を覆っている。
「あ。イシュリナさま。え。ハルカさま?何で?」
突然現れた私たちに混乱しているようだった。
そのおかげか、感じる魔素が少し柔らかくなる。
よし。このまま落ち着いてもらおう。
まずは私のケガはなおってるってわかってもらわないとね。