1
それから、ユーリカの花の転移で、仕事はかなり忙しくなった。
転移局のもめ事の件でお客さんが遠ざかるかもって心配したけど、私の様子を気にした街のひと達が荷物を口実に見に来たりして、結果的に去年より売り上げが増えることになった。
カイザーさん達も喜んでくれたんだけど、喜ばないひともいた。
イシュリナさんだ。
「いくら黒の単色と言っても、家族を心配するのとはまた別なのよ?フィルド君から聞いてるわ。2つとも仕事はひと段落したのでしょう?顔くらい見せにいらっしゃい!」
調書や詐欺師の残党の取り締まりなんかでクルビスさんも忙しくて、私の無事を連絡したきりになっていたらしい。
それに業を煮やしたイシュリナさんからの連絡だ。
もうちょっと小まめに連絡しておけばよかった。
あ。でも、私、通信機の使い方知らないや。
今度クルビスさんに教えてもらおうかな。
通信機持ってるような知り合いって、ルシェリードさん家くらいなんだけどね。
そんなこんなで、休みを調整してふたりでご機嫌伺いに行くことになった。
手土産は水ようかんとお酒だ。
「いらっしゃい!まあ、本当にもう歩けるのね。長さまに伺ってたけど、やっぱりこうして見ると安心するわ。」
ホッとしたような暖かい魔素とともに出迎えられる。
イシュリナさんは家の前に立って、私たちを待っていてくれた。
心配かけたんだなあ。
もっと早くクルビスさんにお願いして、連絡を取れば良かった。
目の前のことに一杯一杯になるのは私の悪い癖だ。
もう27なんだし、もっと周りのことも見れるようにならなきゃ。
クルビスさんの奥さんになった時に、そう思ったはずなんだけど。
中々上手くいかないなあ。
「お久しぶりです。おばあさま。すみません、忙しくて…。」
「お前のその言い訳は聞き飽きたわ。まったく、いつも仕事仕事って、いったい誰に似たのか。」
あああ。イシュリナさんの愚痴が。
ここにルシェリードさんがいれば違うんだろうけど、残念ながら姿は見えない。
でも、このままだとクルビスさんのワーカーホリックの追及に話題が移っちゃいそう。
ワーカーホリックは直して欲しいけど、今は話題を変えたいなあ。
「あ、あの。お久しぶりです。イシュリナさん。クルビスさん、私のケガが治るまで、ずっとついててくれて、仕事も最低限にしてたみたいで。本当に忙しかったんです。あ。これお土産の水ようかんです。」
「あらあら。ありがとう。まあ、伴侶のためだったのなら、今回は仕方ないわね。アニエスはまだ大貝にいるの。急に呼び出されたのだけど、きっとすぐに戻るわ。さ、入って。」
大貝って、街の中心の建物だ。
ドラゴンの一族の長だもんね。お忙しいんだろう。
戻られたら、水ようかんも勧めてみよう。
嫁の立場としては、お茶も用意しないとね。させてもらえるかな。