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気になって仕方なかったけど、調理中のシェリスさんに声をかけるのもためらわれて、料理が来るまでまつことにして座りなおす。
その間、隣のテーブルに座ってお茶を頼んでるルイさんとカバズさんに、ここ数日のことを聞いてみる。
「もうお身体の具合は良いんですか?」
「ああ。あんなのすぐ直ったよ。」
「馬鹿言え。丸1日寝込んだじゃねえか。」
私の質問に、ルイさんは軽く返して、それをカバズさんが咎める。
丸1日って。ええ。重症じゃないですか。
「そりゃ大事を取ってって、治療師さんに言われたからだよ。昼にはもう元気になってたんだよ。」
「あんな、ぐたってしてたのにか?」
「色々あって、眠かっただけだ。」
ブスっとしたルイさんと楽しそうなカバズさんの掛け合いが始まる。
仲がいいんだよね。喧嘩も良くするけど。
「早く治って良かったじゃないですかぁ。あの時の魔素、すごかったですからぁ。一瞬でしたけど、私もあてられちゃいましたしぃ。」
え。キャサリンさんも?
ああ。でも、あの時あの場にいて大丈夫だったのって、私と隊士さんだけかもしれない。
黒の魔素はかなり強い。
調和の性質を持つと言っても、魔素の大きさも影響の大きさもトップクラスだ。
その黒の単色の魔素だなんて、一般のひとには毒にしかならないだろう。
私が婚約前に怒って魔素をふくれあがらせた時なんか、一瞬なんてものじゃなかったせいで隊士さんまで倒れたひとがいたくらいだったし。
「キャサリンさんも。あの、皆さんもですか?」
「まあ、少しだけですが。」
「我々は耐性がありますので、具合が悪くなるといったことはありませんでした。」
顔色を変えた私の質問にデリアさんが言いづらそうに、カイザーさんは笑顔で大丈夫だと諭すように答えてくれる。
慌ててキャサリンさんも「私も、大丈夫でしたぁ。」と教えてくれる。
「ミネルバ工房の方たちは?」
「お元気ですよ。あの後、守備隊から治療部隊の隊士さんが来て下さったので、あの場にいた皆、大事にはなりませんでした。シェリスさんも、翌日にはお店を開けておられましたし。」
良かった。それなら一応大丈夫そうだ。
治療部隊ってことは、フェラリーデさんの手配かな。
メルバさんはクルビスさんの魔素を感じ取ってすぐに守備隊を飛び出したそうだし。
クルビスさんの魔素は北の守備隊本部の中でも感じ取れたそうだから、事情を知らなかったフェラリーデさんでも、非常事態の手配を取ってくれただろう。
「ルイが一番やられたんだよな。」
「っせえ。クルビス隊長に近かったんだから、しゃあねえだろ。」
私が倒れた時に駆け寄ってくださったから。
ルイさんの声は結構近くで聞こえた覚えがあるから、実際近い所にいたんだろうな。
「ああ。気にしないでくれよ?迂闊に近寄った俺が悪いんだから。」
え。でも。
困った私を見て、カバズさんもルイさんに頷く。
「そうだよ。事件が起こった時に隊士に近寄っちゃいけねえなんて、個立ち前のガキだって知ってるんだぜ?いざって時に邪魔になっちまうからさ。他の皆はそれを守って近づき過ぎないようにしてたのに、近づいちまったこいつが悪いよ。」
「ああ。そうだな。反省してる。」
他の皆さんも頷いてる。隊士に近づいちゃいけないなんて、初めて知った。
お仕事の邪魔にならないようには気遣ってたけど、結局クルビスさんといる時は私は抱えられてたからなあ。