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「そうです。情報を正しく集めるには、まず情報をたくさん集めることが重要です。キャサリンさん、カバズさんはこの飾りを持ってきた時、何か言ってませんでしたか?」
「貰った時ですかぁ。えっと誰かの作だろうって言ってましたねぇ。ねえ?カイザーさん?」
フェラリーデさんの質問にキャサリンさんが考え込んで、カイザーさんに助けを求める。
他にひとがいなかったみたいだし、カイザーさんもその時の会話に参加していたんだろう。
「そうですね。たしか…ああ、そうです。今話題の組みひもの技術者のものだろうとおっしゃっていました。ほら、長さま考案の髪留めを作った。」
「ああ。イージス君~?そっかあ、これ彼が作ったんだ~。皆は聞いたことあるかな~?ゴムを使った髪留めを作ってくれた子なんだよ~。今は里に帰ってきてるけどね~。」
カイザーさんのふりにメルバさんが思い当たったように、ポンっと手を打つ。
ゴムの髪留め?ああ。私の髪ゴムを見せて同じようなの作ってくれたひと。
たしか、協力してくれた技術者のひとって、メルバさんと同じエルフで、式の時に七色の石のついた髪留めを売ってたっけ。
今は私も異世界の髪留めでくくっている。暑いもんね。
ちなみに、私が教えたのは内緒にして、メルバさんに表に立ってもらって、技術者が殺到するのを防いでいる。
こっちの技術に関する反応は過剰だと思うけど、過去には殺しもあったそうなので、ありがたく盾になってもうことにした。
髪ゴムの発案者としての報酬は着実に貯まって、いまではちょっとした財産だ。
ルシェリードさんにもらったお金といい、こっちに来てからの方がお金に苦労してないって何だか切ない。
「では、後で里に連絡を取ってみましょう。もしかしたら、石の細工をした技術者にも心当りがあるかもしれません。」
「そうだね~。つながりがある場合が多いからね~。」
ん?何だろう。今のふたりの目配せ。
笑顔で会話してたけど、絶対何かある。
もしかしたら、里に帰ってるのと関係あるとか?
ううん。素人が首突っ込んじゃいけないよね。気づかないフリしとこう。
「他には何か話してなかった~?これに関係ないことでもいいよ~?」
話題を変えるようにメルバさんがキャサリンさんに聞く。
この中でカバズさんと一番話してるのって、キャサリンさんみたいだしね。
「関係は一応ありますかねぇ?それをくれた時、ずいぶんせっかちなお客が来たって言ってましたぁ。たぶん、問題のお客さんだと思いますけどぉ。要件だけ言って、返事をするかしないかで帰っていったとかぁ。」
「ああ。そういえば、そんなことをおっしゃっていましたね。詳しいことも話さずに、黒の染めを50も頼んでいったとか。小さな布だったそうですが、染めの材料が手に入りにくいと困っていらっしゃいました。」
黒の染め?
その注文には心当りがあるかも。
「…クルビスさん。」
「ああ。そうだろうな。衣装の布が手に入らなかった時期と重なる。」
そう。式の前、街では一時的に黒の染料が手に入らなくなった。
私とクルビスさんの式に新しく正装を作ろうと、カメレオンの一族から注文が殺到したんだよね。
そのせいで黒の布も染料も手に入らなくなって、私たちの衣装の染めを引き受けてくれる所が無くて困ったのでよく覚えている。
ただでさえ、黒の布は何度も染めないといけないから量がいるのに、注文が大量で染料の生産が追いつかなくなったそうだ。
あの時は材料も布の値段も高騰したと聞いている。
カバズさん苦労しただろうなあ。
それで踏み倒されそうになったとか。
どう考えても破産ものの損害だよ。酷いことする。




