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「すみません。知ってる実に似てたので。つい。」
「いいよ~。これはビスっていうの。変わってるよね~。こんな硬くて変わった形してるし、食べられないし~。でも、この形と硬さのおかげで、種が守られてるんだけどね~。」
えっと、こっちの世界の菱の実って食べられないの?
野生種だと食べられる部分は少ないと思うけど、中には柔らかい部分があるはずだ。
でも、こっちの世界の植物って巨大で強いからなあ。殻がむけないかも。
メルバさんが持ってるのも男性のこぶしくらいあるし。
「こちらのは食べられないんですね。大きいから、中の食べられる部分も多いと思ったんですけど。」
「中?これの中を食べるの?」
「?はい。故郷の菱の実は中が白くて柔らかいんです。しっかり湯がくと、クリのような食感で美味しいですよ。」
んん?何だかメルバさんの目がキラキラしてるような。
治療部隊のエルフの皆さんもだ。クルビスさんやフィルドさんは不思議そうな顔してるだけなのに。
「クリ。クリかあ~。美味しいよねえ。こっちに来てからは、なかなか食べられなくなっちゃったんだよね~。」
とうっとりした表情で話すメルバさん。
どうやら、エルフはクリが好きらしく、エルフの里にあったクリの木から実を採って、それをわざわざ寒い場所で栽培をお願いして、クリを輸入してるらしい。
でも、湯がくと甘いクリは他の一族にも人気で、入荷しても取り合いになるので好きなだけ食べられないんだとか。
そこに菱の実に似てると私が言ったと。あちゃあ。
「菱の実は甘くないですけどね。淡泊でクセがないので、何にでも使えます。栄養価も高いですし。でも、それも同じかは保証はできませんよ?」
「だーいじょーぶ!」
エルフの熱気に押されて、私が恐る恐る告げるとメルバさんは問題ないと首を振った。
何でそんなに自信満々なんだろう。
「これはね。たぶん、ハルカちゃんの良く知ってる実と同じだと思うから。」
どういうこと?
同じって、でも、大きさが。あ。
「桜…。」
「うん。こっちに来てね。大きくなったんだと思う。ハルカちゃん、この実がどうやって育つか、ううん、何処で育つか知ってる?」
菱の実っていえば、水中で芽を出すんだよね。
菱は、菱型って名前の元になった菱の形の葉っぱをもつ水草だ。
「水草ですから、沼とか池、ですよね?」
「そう。そして熟した実は…?」
「底に沈む。」
私の答えに満足した様子のメルバさん。
でも、こっちには何が何だかわからない。
結局、この菱の実が使われたっていうことが、どういうことに繋がるんだろう。
食べる方に話がそれちゃったからなあ。