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和んだのが良かったのか、交渉はスムーズに進んだ。
リックさんは手違いで請求書をいきなり送ってしまったことをシェリスさんに再度詫びて、お店の状況などルイさんの話も聞きつつ、テキパキと支払いプランを提示していく。
大きな工房だと30回以上の払いも出来るそうだけど、個人経営のミネルバ工房では多くても30回くらいが限度らしい。
それでも良心的なお店だという評価は間違ってなかったらしく、シェリスさんのお店は出来たばかりだからと、負担にならないように30回払いで了承してくれた。
「ありがとうございます。ですが、その、よろしいのでしょうか?」
「こっちは助かるんだけどさ、30回なんて、いいのかい?見積もりも安くなってるし。」
お礼を言うシェリスさんに、ルイさんが心配そうにリックさんに確認する。
回数を分けるということはそれだけ利益の回収が遅くなるということだ。
30回はミネルバ工房が出来る最大分割回数だろう。
経営の苦しい時にそんなことをして大丈夫だろうか。
「大丈夫です。実は義父が戻ってくることになりまして。」
「え。そうなのかい?ゼフさん。」
「ああ。今の職場は劇場なんだが、新しい道具の製作をいくつか頼まれたんだ。期間も結構あってな。だから、籍は劇場に置くが、しばらくは工房で仕事することになる。シェリスさんのも作るくらいの余裕はあるさ。しっかり作らせてもらいますよ。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
嬉しそうなシェリスさんの様子に皆ホッとする。
ルイさんも役目を終えてホッとした様子だ。
たしかゼフさんの職場って、クルビスさんが詐欺師を捕まえたところだっけ。
劇場自体は関係してないって話だったけど、風評被害があるって聞いた。
新しい道具は新しいお芝居のためだろう。
どんなお芝居か知らないけど、いいタイミングで助かった。
シェリスさんの注文は鍋やら包丁やら結構数があったみたいだから、心配だったんだよね。
信用できるお店で作ってもらえて、支払いも分けてもらえるなら、それが一番いいんだし。
話がまとまると、そろそろ通常の営業時間になりそうだということで、お暇することになった。
ミネルバ工房みたいな店は、工房は朝早くから開けてるけど、店の方作業のひと段落する9時か10時ごろらしい。
「もし見慣れない怪しい者がいたら、すぐに守備隊に知らせてください。隊士は夕方には送りますので。」
「ありがとうございます。クルビス隊長。お待ちしています。…カイザー局長。私が言うのも変ですが、どうか、お気をつけて。」
リックさんの声と魔素が不安に揺れる。
私たちにこれから起こるかもしれないことを心配してくれてるんだろう。
「ありがとうございます。」
それを知ってるカイザーさんも真剣な様子で頷く。
夢のこともあるし、ホントに何も起こらないといいんだけど。