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「あら。ごめんなさい。リイザさん。」
「あんたも知らないのかい?」
キャサリンさんのおばあ様は有名みたい。
彼女の登場で視線が一気に集まる。
「知りませんよぉ。昨日の今日ですものぉ。知ってたら、店の前で話してるわぁ。今日は荷物を預けに来ただけなのよぉ。いつもは孫に頼むんだけどねぇ。今日は忙しそうだからぁ。」
ああ。いつもはキャサリンさんが呼ばれて荷物取りにいってるもんね。
でも、今日はキャサリンさんは奥の作業に専念してもらってるから、そんな時間も隙もなかったから持ってきて下さったみたいだ。
キャサリンさんが受付に座ると何か知ってるだろうって粘るお客さんが多くて、困ったんだよね。
だから、デリアさんとも相談して、今日のキャサリンさんは荷物の仕分けと転移を中心に担当してもらってる。疲れたら仕分けだけしてもらって、後で皆で一気に送ろうってことにした。
おばあ様は初めてお会いするけど、杖をついてるみたい。足が悪いのかな。
だとしたら、荷物を先に受け取らないといけないんだけど、結構大きい荷物なのに、片手で軽々持ってるし、穏やかに目を細めて笑ってらっしゃるんだよね。
周りの注目度合いもあって、声をかけ辛い。
うう。目の前のふたり、さっさと帰ってくれないかなあ。
「リイザさんでも知らないのか。」
「結構大ごとなのかしら。」
「こらこらぁ。守備隊の絡んでることで、ウワサはご法度ですよぉ。間違ったウワサになったら、どうするんですかぁ?」
「そ、そうね。ごめんなさい。」
「そうだな。今日はやめとくわ。」
「心配しなくても、ちゃんとわかれば教えてあげますよぉ。でも、今日はもうお帰りなさぁい。」
その一言で、綺麗なお姉さんは恥ずかしそうに帰り、それに続くように後ろにいたお兄さんも規定の料金をさっさと払って帰って行った。
気がつくと、並んでた何人かも帰っていったようで、局内はがらんとする。
す、すごい。ちょっと話しただけで、この効果。
やっぱり情報通としての信頼というか、言葉の重みが違うんだろうなあ。
「ふう。やれやれですねぇ。ああ。この荷物お願いしますぅ。」
大きな荷物を差し出されて、慌てて受け取る。
う。これ、結構重いんだけど。片手で軽々持ってたよね?
「はい。お預かりします。…あの、ありがとうございました。」
「あらあらぁ。いいんですよぉ。うちも営業妨害されてましたからぁ。道をふさがれたら、通れませんしぃ、そろそろ蹴散らそうかと思ってたんですぅ。ああ。申し遅れましたぁ。私、ヘビの一族、リイザと申しますぅ。転移局の皆さんには孫がいつもお世話になっておりますぅ。」
「こちらこそ、キャサリンさんにはいつもお世話になっております。里見遥加です。どうぞ、遥加と呼んで下さい。」
リイザさんの名乗りに、慌てて私も名乗りを上げる。
それを聞いたデリアさんも、手が空いたらしく、近くに来て名乗りを上げた。
しかし、名乗りでうやむやになったけど、穏やかなおばあ様らしからぬ中々物騒な発言が混じっていたような気が。
ううん。気のせいだよね。たぶん。
それにしても、道がふさがってたって、そんなのが朝からじゃそりゃ営業妨害だよ。
これはカイザーさんにも報告して、後でご近所にお詫びに回らないと。