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2人の誤解は結局解けず、私は『機転の回る女』ということになってしまった。
ううう。思いついただけなのに。
それでも仕事は待ってくれない。
ウワサを聞きたいお客さんで転移局はごった返す。
今相手をしているお客さんも、普段は見かけない青色の体色のトカゲのお姉さんだ。
こんな綺麗な刺繍の入った薄い青色の服を着たひとなんて、普段は絶対こないのになあ。
通りに近いお店のひとかな?
もしかしたら、薬師通りのひとかも。
「ねえねえ。朝カイザーさんがクルビス様と出て行ったんですって?いったい何が起こったの?」
「お前、そりゃあ昨日のルイのやつのことに決まってんだろ。あんな血相変えて走ってたんだぜ。」
「やっぱり?じゃあ、その件で?」
綺麗なお姉さんに良い顔したいのか、後ろに並んでたお兄ちゃんが知ったかぶりに話し出す。
いえ、あの、決定じゃないんで。一応。
困ったなあ。ウワサがルイさんに何かあったってことで確定しちゃってる。
ルイさんの店にもひとが集まってるかもしれない。大丈夫だろうか。
「実は私たちも詳しくは知らされてなくて…。カイザーさんが戻られないことには。」
おつりを渡しながら、何十回と繰り返した言い訳も一緒に返す。
それを聞いて、目の前のふたりはますます目を輝かせた。何でよ。
「ハルカ様にも内緒なの?」
「そりゃ飛んでもねえことが起こってるな。」
いやいやいや。話を大きくしないで下さい。
これ、昼もやったやり取りだ。もう夕方なのに、まだこの騒ぎ。
詳しい話が聞けないから、きっと皆好き勝手言ってるんだろうなあ。
どうしよう。カイザーさん、早く戻ってきて下さい。
「もう!そんなこと言っちゃあだめですよぉ。ハルカ様が困ってらっしゃるでしょぉ?ルイ君だって関係ないかもしれないんだからぁ。勝手なことは言わないのぉ。ほらほらぁ、後が使えてるんだからぁ、終わったらどいて下さいなぁ。」
え。キャサリンさん?じゃ、ないや。後ろから聞こえたもんね。お客さんだ。
くすんだ赤のヘビのお祖母さん。何だか知ってる雰囲気だ。
「あ。おばあちゃん。どうしたんですかぁ?」
声を聞いたらしく、キャサリンさんがカウンターの方に出てくる。
おばあちゃん?キャサリンさんのおばあ様かあ。
どうりで雰囲気といい、独特のイントネーションといい似てるわけだ。
キャサリンさんのご両親にはご挨拶したことがあったけど、おばあ様は初対面。
こうして見ると、キャサリンさんっておばあ様似なんだなあ。
きっと口調もおばあ様を真似てるうちに移ったんじゃないだろうか。
いつもはお店の奥にいるって話だったけど、今日はどうされたんだろう?
何かキャサリンさんに用事かなあ。




