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その後は普通にお客さんを捌いて、素知らぬふりを通しつつ、休憩時間になった。
結局、お客さんが次から次に来て、お昼休みもろくに取れてないなあ。
まあ、ウワサ話のついでに差し入れ持ってきてくれたひともいたから、食べるものはあるんだけど。
今は、それをありがたく頂きながら、スタグノ族のお客さんについて話してるところだ。
「実家に帰って来てたんですねぇ。お土産もらっちゃいましたぁ。」
嬉しそうに手の中のメモを見て小声でつぶやくキャサリンさん。
確認してみたら、さっきのスタグノ族は前に挨拶に来たひとだったらしい。
実は、シーリード族にもスタグノ族の見分けは難しいらしく、「同期なんで、彼だけは見分けられるんですよねぇ。」と苦笑していた。
彼はキャサリンさんが北西の地域に行くことをとても心配してくれていたそうだ。
「彼、薬師街出身なんですよぉ。そこで薬草に近いお花を扱ってるお店の子でぇ。だから、学校とかもずっと一緒だったんですよねぇ。」
じゃあ、北西の地域の状況もよくわかっていたんだ。
あの大仰な挨拶に来た時も、様子を見に来るためだったのかもしれない。
「心配はされましたけどぉ、ここに来るのは反対されませんでしたねぇ。術士が必要なのはよく知ってましたからぁ。でも、周りの術士候補生からは変な子扱いでぇ、わかってもらえて心強かったですねぇ。」
懐かしむように嬉しそうに笑うキャサリンさん。
う~ん。中々良い感じじゃない?
カイザーさんと良い感じかなあと思ってたけど、職場も離れてるのに、わざわざ様子を見に来てくれる幼馴染がいるとは思わなかった。
ふたりとも色がまったく違うから何ともいえないけど、でも、何とも思ってなくて、危険を冒してまでは来ないよね?
「だから、彼が式を挙げた時はうちから一番良い果物を持って行ったんですぅ。とっても喜んでくれてぇ。伴侶さんもとっても可愛い方ですよぉ。」
なんだ。もう結婚してた。残念。
いやいや、カイザーさんのこと考えたら、その方がいいよね。うん。
「いい幼馴染ですね。」
「そうですねぇ。私たちの代では、この辺りの子で術士になったのって、私と彼くらいですからぁ。お互い気にかけてましたねぇ。」
そうか。ふたりだけだったんだ。
この辺り出身ってだけで、差別の対象になってただろうし、それなら絆も強いだろうな。
私が考えた予想とは違うけど、いい関係みたいだ。
良かったですね。カイザーさん。
カイザーさんともちょっとは関係が進むといいんだけど、今の転移局の現状じゃあ、カイザーさんの方が踏み切れないかもなあ。
デリアさんも気づいてて、何とか良い感じに持って行きたいですねと言ってるんだけど、こればっかりはなかなかね。
下手につついて、関係が悪化してもいけないし、しばらくは見守るしかないかな。
あ。カイザーさん返ってきた。キャサリンさん、メモメモ!
「ただいま戻りました。これからまた出かけますから、留守をよろしくお願いしますね。」
「あ。局長。こちらの荷物で聞きたいことが。」
「はい?」
カウンターの中に入ってきたカイザーさんに、例のメモを荷物と一緒にそっと渡す。
それでわかったようで、メモをさっとポケットに隠すと、当たり障りのない私の質問に丁寧に答えて、そのまま出て行った。
ホッ。上手くいったみたい。
振り替えるとデリアさんとキャサリンさんが興味深そうにこっちを見ていた。
バレバレだったかな?
少しは隠せてたと思いたいけど。