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「…そういうわけで、ルイさんの相談内容は請求書の支払いについてでした。一応、シェリスさんやルイさんにはおかしなことではないと説明はしました。
額は妥当なものでしたし、シェリスさんのお店は出きて数か月ですので、おかしなことではありませんでしたから。ミネルバ工房が大変だという事情も耳にはさんだこともあって、お金の回収を急ぎたいのだろうとも思いましたので。」
カイザーさんの説明は、昨日クルビスさんに聞いたものと同じことだった。
でも、未だ暗い表情を見てると他にもあるんだろうな。
「ただ、その場では言いませんでしたが、疑問はありました。ミネルバ工房はルイさんが店を出した時からの付き合いで、先代のご店主の番はとてもルイさんを可愛がっていました。娘さんとも仲が良かったはずです。
それが伴侶殿の返事とはいえ、2代目になったばかりで、先代からの大事な付き合いをつぶすようなことをするだろうかと。しかし、それを昨日の時点で指摘したら、ルイさんは怒ってそのままミネルバ工房に駆け込んでいたでしょう。それくらい、ショックを受けていらしたので。」
知らなかったけど、ルイさんとミネルバ工房の付き合いは、かなり深かったみたいだ。
だからあんなに怒ってたんだ。カイザーさんの心配もわかるなあ。
「しかし、それでは、後々までウワサになってしまい、双方にとって良くない結果になると思いました。そこで、私はとにかく冷静になってもらおうと、相手に事情がある可能性を伝えてから、支払いに関しての対処として、前金を払って、事情を説明することを勧めたんです。具体的な話になれば、落ち着かれる方も多いですから。」
ああ。確かにウワサになりそう。
こっちの世界には、ニュースや新聞みたいな情報元は少ないから、変わったことはすぐウワサになる。
商品の広告なんかは定期的にまとめて発行してるくせに、どうして、新聞や一般の事件なんかは扱わないのか謎だけど、まあ、無い物は仕方ない。
だからか、ウワサの力がかなり強い。
もし店先でもめたりしたら物見高いご近所さんは覗いただろうし、あのまま突撃してたら「紹介者の顔をつぶすようなことをした」なんてウワサはすぐに広まっただろう。
昨日の相談に来たのだって、夜には守備隊の隊長さんの耳に入ってるくらいだ。
でもそうなったら、お店の信用も、そしてルイさんの紹介者としての信用もなくしただろうな。
カイザーさんの機転でいろんなことが助かったんだなあ。
「ただ、この件に関することが後からわかりまして。」
ああ。きっと、ここからが本題だ。
怒られる準備しとこう。
「昨日の業務が終わった後、シェリスさんが、昼に騒がせたことへの謝罪にいらっしゃいました。そこで少しお話したのですが、見積もりの依頼と紹介状を我が転移局から別々の封筒で出されたことを知ったのです。急ぎ問い合わせたところ、広場の転移局では1つしか手紙を受け付けていないという返事がきまして。」
カイザーさんはそこで声を詰まらせる。
無くなってたんだろうな。きっと。
うわあ。最悪だ。
私のミスが元とはいえ、手紙の紛失だなんて。
「…紛失した、ということでしょうか?」
「はい。」
クルビスさんの問いかけにカイザーさんが魔素を一層暗くして答える。
ううう。先に言わせてしまってすみません。
謝ろう。
知らなかったとはいえ、今回のことは私のせいだ。
「申し訳ありませんでした!」
「え。…もしや、受付したのはハルカさんでしたか?」
あれ?私のことは知らないみたい。
とっくにデリアさんに聞いてると思ってたのに。