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結局その日はクルビスさんを説得なんて出来なかったけど、翌朝、別の方から後押しが来た。
それは、緊張した顔で転移局の入口で待っていたカイザーさんだった。
「おはようございます。ハルカさん。クルビス隊長。」
「おはようございます。」
「おはようございます。カイザー局長。」
いつもなら、もっと明るい魔素で出迎えて下さるのに、今日は緊張を含んだ暗い魔素だ。
どうしたんだろう。何かあったんだろうか。
「クルビス隊長、少し中へどうぞ。」
普段はそんなこと言わないカイザーさんに、クルビスさんも驚いたようだったけど、ご近所の目もあるので私を下して素直に中に入る。
中に入ると、カイザーさんはカーテンを引いていない相談スペースで待っていて、小さな声で話始める。
「実は、クルビス隊長に相談があるのですが、少しお時間いただけないでしょうか?」
カイザーさんがクルビスさんに胸に手を当てて言う。
礼儀を示すこの姿勢は、相手に敬意を見せる時に使う。
つまりこれは北西の転移局の局長カイザーさんから、北の守備隊戦士部隊隊長クルビスさんへの相談ということになる。
大ごとの予感。昨日の相談の件かな。
「わかりました。ハルカ…。」
「いいえ。出来ればハルカさんもご一緒に。」
カイザーさんの様子にクルビスさんは頷き、私に仕事するよう促した。
けれど、カイザーさんは私も一緒に相談に乗って欲しいと言う。
…やっぱり、シェリスさんの件かなあ。
私が間違って普通に手紙を送ったことを、後でシェリスさんから聞いたのかもしれない。
「は、はい。」
ううう。その話になったら、とにかく謝ろう。
観念した私はカイザーさんに頷いて、カーテンを引いて、相談スペースの確保を始めた。
その間にカイザーさんは用意していたテーブルにお茶を準備し始める。
私たちを待っていたのか、お茶菓子まで用意されていた。
ゆっくりお茶を淹れ、私たちの前にカップを置くと、カイザーさんは静かに話し始めた。
その目は何かを覚悟しているようだ。
「お時間を頂きありがとうございます。早速ですが、昨日のことです。すでにお耳に入ってるやもしれませんが、ルイさんがご相談にいらっしゃいまして。最初は、また手紙の紛失や情報の行き違いなどあったのかと思ったのですが…。」
そこから、私が昨日クルビスさんに語った話をカイザーさんは始めた。
ただ、カイザーさんにはルイさんが駆け込んで来た時点で、すでに幾つかの可能性が浮かんでいたみたいだった。さすが局長。