18
「あの、娘さんが具合を悪くされたのって、気温が下がった「あの日」だったんですか?」
私が恐る恐る問いかけると、フェラリーデさんがハッとした表情で口元を抑える。
いつも穏やかな魔素が揺れているから、動揺してるみたいだ。
「あれは偶然だ。ハルカのせいじゃない。」
フェラリーデさんが答える前に、クルビスさんが私には関わりがないと強く言う。
うん。まあ、それはそうなんですけどね?
現状に不満はないけど、好きで選んでトリップしてきた訳じゃないし、その時の日本の早朝の冷たい空気が流れ込んでしまっても、私がやったことにはならないって、いろんなひとに言われたけど。
そうなんだけど、私の性格上、それで知らんぷりは出来ないわけで。
結婚式をして、街中で祝ってもらって、それがとても嬉しくて。
こっちの世界は魔素で感情の機微が大まかにわかるから、心から喜んでくれてるのがよくわかった。
だから、私とクルビスさんの結婚を喜んでくれたひと達のために、私が出来ることは何でもしたいってその時にすごく思って。
なのに、私が関わってる「あの日」のせいで、困ってるひとがいるなんて。
シェリスさんやルイさんだって、ミネルバ工房が困ってなければ、ちゃんと対応してもらえただろうし。
気になるなあ。
様子だけでもちょこっと見に行けないかなあ。
ぎゅっ。
私がぐるぐると考え込んでいると、クルビスさんがギュッと抱きしめてくる。
わかってます。この件に関して、私が何か出来るわけでもありませんって。
ああ。でも、気になるなあ。
話の通りなら、大変な状況のお店に行って、シェリスさんの支払いの保障がルイさんだけで足りるんだろうか。
重要視されるはずの紹介状も無視されたみたいだし。
う~ん。でも、よく考えるとそこからして話がおかしいよねえ。
私はよくわかってなかったけど、紹介者ってすごく大事な役割みたいだし、だからルイさんは怒ったわけだし。
差別的な店だっていうなら、そういう対応もあるかなって思うけど、そもそもそんな店をルイさんが紹介するわけないし。
だとすると、ルイさんに何もないのって、紹介者って認識されてないっていうのが一番簡単な答えだ。
いや、でもねえ。さすがに紹介状は届いてるでしょう。うちの転移局で受け付けてるし。
「2つともちゃんと転移させたし。」
うん。送ったの私だし。
それは覚えてる。
「2つ、とは?」
え?クルビスさん何かいいました?
「封筒が2つなのか?」って、ええ。そうですよ。
見積もりの依頼と、紹介状。
あの。お顔が怖いんですけど。
「もし、封筒が2つに分かれてたなら、北西の転移局で受け付けた紹介状は、届いていないかもしれない。」
え?え?どういうことです?
北西の転移局で受け付けた紹介状はって…。まさか。