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「あの、娘さんが戻らないと支払いが滞るって。」
遠慮がちに聞いて見ると、フェラリーデさんが優美な眉をひそめて頷く。
相変わらず、こんな仕草も絵になるひとだ。
「ええ。技術者がいるかどうかで店の信用が変わるんですよ。ここは技術で発展してきた街ですから、作り手の地位が高いのです。」
ああ。だから、技術者のいない今のミネルバ工房には信用が少ないってこと。
だからって、支払いが滞っていいことにはならないと思うけど。舐めてるってことだよね?
「じゃあ、技術者のいない店は信用が低いってことですか?」
「一概にそういうわけではありませんが、小さな工房では下に見られることもあるようです。」
私の考えに悲しそうに目を伏せるフェラリーデさん。
じゃあ、お店が苦しいっていうのは、技術者の先代も娘さんもいないから、周りから舐められてるってことかあ。
色の差別も嫌だなあと思ったけど、これもこれでなんだかなあ。
技術が優遇されるのと、支払いが滞るのは別でしょうに。
「支払いが滞るのは別の問題だと思いますけど…。」
「だよなあ。だから、最近はそういうのを取り締まる法をもっと細かく整備しようって話になってんだよ。公平な売買を守ろうって動きが強くなっててな。昔はもっと街の規模も小さかったから、もめたって間に入るやつがいれば大抵解決したから、その辺が甘いんだよなあ。仲介者についての法は結構整備されてるんだけどな。」
法が細かく整備されてない、かあ。
でも、話合いで解決が基本だから、間を取り持つひとがどっちかに偏らないようにとかそういうことは細かく決まってると。
あれだけ技術の情報についてやら、技術者の保護やらうるさく言っておいて、商売の部分が甘いってどうなの?
う~ん。娘さんが嘆いていた理由がわかったかも。技術者である先代と娘さんがいれば法で守られてたから、支払いもきっちりしてたんだ。
なのに、技術者でないお婿さんだけになった途端、舐めてかかってきたと。
これが罪に問えないって問題だなあ。
「そうなんですか。それで、ミネルバ工房は今苦しくて、なるべく費用を回収しようとしてるんですね。」
「だと思うぜ。だから、前金を払うなら、シェリスさんの件はもめることはないと思う。」
私が理解したのを見て、頷きながらキィさんが交渉が上手くいくだろうと予想を教えてくれる。
そっか。前金を用意するのは少し大変だけど、シェリスさんに良いようになってくれるなら、それがいい。
クルビスさんが言ってたのと同じだ。安心した。
私がホッとしていると、キィさんがフェラリーデさんに質問する。
「でもなあ。このままってのもなあ。リード、娘さんはいつ頃戻ってこれそうなんだ?」
「そうですね。もう数か月たってますから、お子さんの体調も、もう安定してるはずです。あの寒波がなければ、とっくに店に戻っているはずでしたし。」
…かんぱ。え、寒波って、寒い日に使う言葉だよね?
えっと。それって私がこっちに来た日じゃないっけ。