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「ルイさんの紹介ではお店で作ってもらえるはずだったのが、帰ってきた見積もりは外注のものだったみたいなんです。えっと、先代のご店主さんはお店で作っていたんですよね?」
「ああ。成る程なあ。ルイは先代がまだやってるって思ってたわけだ。今は娘さんもいないしなあ。」
ここでなぜルイさんの話にミネルバ工房が出て来たのか察せられたキィさんがため息をつく。
娘さんのことも知ってるみたい。
「ええ。でもルイさんにそのことを説明する手紙も知らせも無かったらしくて。」
「なのに外注の見積もりが来た、と。紹介者に連絡なしですか…。」
この中で事情をまったく知らないフェラリーデさんが、少し事情がわかったように相槌を打ってくる。
フェラリーデさんの反応からみても、紹介者というのはとても大事な役目だと認識されてるみたいだ。
「はい。あの、別に請求の額が理不尽に大きいということはなかったみたいなんです。カイザーさんが額は適性なものだとおっしゃってました。でも、シェリスさんのお店が出来て間もないからか、支払いは一回で全額出さなければいけないそうなんです。それでルイさんは怒ってしまって。」
「そりゃあ、怒るわ。」
「そうですね。紹介者がいる取り引きで一回の支払いとは。あまり聞かない話です。」
キィさんとフェラリーデさんが理解した顔で言う。
私もあらためて説明したら、ルイさんが怒っていた理由がよくわかってきた。これは怒るわ。
「ええ。それで、ルイさんは転移局に駆け込んでこられたんです。ただ、事情を聞いたカイザーさんは、紹介者への知らせはともかく、請求としては妥当な額だとおっしゃって、直接お店に交渉に行くことを勧めてました。シェリスさんのお店は繁盛してますし、お店のことも広まってきています。
前金をいくらか払えば、分割にしてもらえるだろうってアドバイスされて。ルイさんも最後まで付き合うとおっしゃって、シェリスさんに付き添って交渉に一緒に行くことで話は落ち着きました。」
「成る程なあ。カイザー局長のアドバイスの通りにすれば問題なさそうだな。」
「ええ。しかし、ミネルバ工房ですか…。娘さんが戻るのはまだ先ですねえ。」
私が説明し終えると、キィさんとフェラリーデさんはため息をついてお茶を飲む。
あれ。フェラリーデさんもミネルバ工房の娘さんのこと知ってるんだ。
「ん?俺、リードに娘さんのことまで話したっけか?」
「いえ、長が娘さんにお会いした時に、話を聞いたそうで。自分が戻るのが遅れたせいで伴侶に迷惑をかけていると。そのせいで、支払いが滞ることが増えて大変だそうです。」
意外な所から話が出て来た。
そっか。メルバさんが娘さんに会ったんだ。
でも、娘さんが戻るのが遅れて、支払いがってどういうことだろう。
突っ込んで聞いてみてもいいかなあ。