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「一度帰ったんじゃなかったのか?」
「それが、ちびすけが熱だしちまってよ。中央に急いで連れていったりしてたら、戻る時間になっちまって。」
あらら。帰ったことは帰ったけど、お子さんが熱出しちゃったんだ。
じゃあ、ばたばたして、家族水入らずとはいかなかっただろう。
「お大事に。小さい子の熱は心配ですね。」
「ああ。はやく良くなるといいな。」
「ありがとう。熱自体はかなり下がったんだ。リッカの連絡では、今日にはもう起き出そうとしてたみたいだから、大丈夫だと思う。長さまがいて下さって助かったよ。」
メルバさん、中央にいたんだ。
いつもひょっこり出現するから忘れがちだけど、エルフの長だから中央にいるのは当たり前のことなんだよね。
事務処理や一族に関することを決めたり、エルフの場合は薬の製造と品質のチェックもあるとかで結構忙しいらしい。
ただ、フェラリーデさんの授業では長というものはどの一族でも忙しいのが前提だと言った後で、「あの方は例外です。ひとところにいて下さることがほとんど無いもので…。」とため息をついていたなあ。
つまり、メルバさんに会えるかどうかは運次第ってこと。うん。メルバさんが長のお仕事してくれてて良かった。
キィさんやリッカさんは大変だっただろうけど、処置の早いメルバさんがいたのはラッキーだったよね。
「良かった。」
「ああ。早く大きくなるといいな。」
「そうなんだよなあ。もうちょっと大きくなれば、丈夫になるから安心なんだけど、今の小さい時も可愛いしなあ。」
お父さんのセリフだなあ。
困った風に言いながらも嬉しそうだ。
この世界では子供は生まれにくいから余計にそう思うのかもしれない。
自分が親になったら、こんな風に幸せに悩むんだろうか。
「ふふ。幸せな悩みだ。」
「まあな。ああ、そういや話は変わるけどよ。ハルカさんに聞こうと思ってたんだ。今日、ルイが駆け込んで来たんだって?何かあったのかい?」
クルビスさんと話していたキィさんが、突然私に聞いてくる。
え。何で今この質問?
私に聞こうと思ってたって。
もしかして、ルイさんが駆け込んで来たのって、ウワサになってるのかな。うわあ。
「えっと、ちょっとした相談事で。ミネルバ工房ってご存知ですか?」
ついでだし、ここでミネルバ工房について聞いちゃおうか。
ウワサについてもどれくらいのものなのか聞いておかないとね。広まってないといいけど。