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話していくうちに、頭の中のもやもやがすっきりしていく。
値段が適性だからまともな店だとカイザーさんが判断したことには、クルビスさんも頷いていたから安心したのかもしれない。
「支払いの回数が1度というのは厳しいな。」
「ええ。私は見積もりは見てませんけど、この支払いなら数回に分けるものだって、ルイさんが怒ってましたから、かなり高額なんだと思います。でも、カイザーさんはシェリスさんのお店が出来て数か月だからだろうって。
だから、直接出向いて、前金をいくらか払って、きちんと説明すればわかってもらえるはずだってアドバイスしてました。最終的には、ルイさんも一緒に行って、交渉してくれることになったんですけどね。紹介者に何の断りもないなんてって、とても怒ってたし、最後まで責任持つっておっしゃって。」
「ルイさんが一緒に行くなら大丈夫だろう。彼は店を出して長いから。逆に、シェリスさんの店のように出来たばかりの所には信用がないから、先に費用を回収しようとしたんだろうな。実際、店が出来て数か月ともたずにつぶれることはあるから、相手の店の対応も間違ってはいないんだ。カイザー局長の言ったことはそういうことだよ。まあ、だから、紹介者が必要なんだが…。」
ん~。間違ってないかあ。
そうかもなあ。商品作ったら、取り引き先が倒産してましたじゃ、シャレにもならないもんね。
それで、紹介者が必要になるってことは、ルイさんの紹介状って、色で差別しない店への紹介とつなぎ以外にも、シェリスさんのお店の支払い能力の保障もしてることになるんだ。
うわあ。なら、いくら先代宛てに書いたといっても、紹介者無視したような断りなしの1回払い請求が来たんだから、ルイさんが怒るのは当たり前かも。
「その紹介者に何も断りがないというのは、おかしいな。ルイさんでなくても怒るだろう。ミネルバ工房も大変かもしれないが、先代からの付き合いは大事にするものだ。もし、交渉が上手くいかなければ、今度はルイさんから今回の話が伝わって、他の取引先からの信用がなくなるだろう。だから、シェリスさんの条件を店は受けることになると思うよ。心配いらない。」
ああ。そうなんだ。そういうことなら安心。交渉は上手くいきそう。
ルイさんが口で負けるとも思えないし。
それにしても、クルビスさんってミネルバ工房知ってるんだ。
有名なお店なのかな。
「そうなんですね。安心しました。でも、クルビスさん、ミネルバ工房知ってるんですね。有名なお店なんですか?」
「いや。つい最近知ったんだ。キィに教えてもらった。ほら、星祭の日、捕り物で技術者の方に協力してもらったって言っただろう?」
ああ。熟練の技術者さんに箱の鑑定をしてもらったってあれ。夜に部屋に帰ってから教えてもらったっけ。
事件の概要くらいで詳しく知らないけど、箱のことは私も関わってるからって教えてもらったんだよね。
鑑定出来る程に目の利く熟練者は少ないそうで、キィさんの人脈の広さにクルビスさんはしきりに感心していた。
キィさんのお散歩には意味があるから、キーファさんも叱るに叱れない、なんてことも教えてもらったっけ。
「ええ。箱の鑑定をされた方ですよね?」
「ああ。その方がミネルバ工房の先代の店主なんだ。」
意外な所で意外なつながりが。
あれ。でも、その方って劇場の大道具とか作ってるひとじゃなかったっけ。