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シェリスさん達が帰った後は、お客さんもそういなくて、近所のひと達がルイさんが駆け込んできた理由を知りたがるのを相手する方が忙しかった。
それも夕方になるとなくなって、いつも通りの時間にクルビスさんが迎えにくる。
「今日は忙しかった?」
「いいえ。あ、相談ごともあったので、いつもよりは忙しかったですね。」
2人で手を繋ぎながら、今日のことを話す。
たわいもない話ばかりだけど、クルビスさんはいつも楽しそうに聞いてくれる。
「ありがたいことだ。カイザー局長が来て下さってから、この辺りのもめ事はずいぶん減ったな。」
「そうなんですか?」
「ああ。ビドーもいるし、おかげで仕事が楽になった。」
しみじみとしたセリフに、昔はどれだけ大変だったんだろうと恐ろしくなる。
今でも色の差別があちこちで目につくくらいだ。昔はもっと酷かったのかもしれない。
でも今は、カイザーさんが相談に乗って、ビドーさんが見回って睨みをきかしてくれてるから事前に防げている事件がたくさんあるんだと思う。
何でもかんでも守備隊がやるのは無理があるもの。
カイザーさんとビドーさんには感謝しなきゃ。
そんな話をしてるうちに守備隊到着。
荷物を置いて、まずは食事だ。でも、その前に。
「ねえ。クルビスさん。色の差別って、ものを買う時も結構あるものなんですか?」
楽しい話じゃないけど、今日のこと話してたら頭に浮かんじゃって、消えなかった。
だから、食事の前に聞いておきたくて、質問する。
隠しても、クルビスさんにはばれるけどね。
今回もクルビスさんは驚いた様子もなく私を膝に乗せて、いつもみたいに丁寧に教えてくれた。
「そうだな。褒められたことじゃないが、値段を吹っかけられることもあるし、売ってもらえない場合もある。悪質な店は、この間の調理器具みたいに壊れたものやすぐ壊れるものを売ったりする。
壊れたものが売られた場合はさすがに守備隊が動くが、使ってるうちに壊れてしまったりすると、個々の取引の問題として話合いで解決するしかないな。この街は作り手に有利なように出来てるから、それも上手くはいかないらしいが。」
話終わると、クルビスさんは顔をしかめていた。
もしかしたら、泣き寝入りした事例を知ってるのかもしれない。
そっか。売ってもらえない場合もあるし、酷いと壊れやすいものを売りつけられる場合もある。
しかも、解決方法が基本個人間での話し合いかあ。
だから、紹介してくれるひとが必要になるんだろう。
ルイさんみたいに、他の地域から仕入れをしてるひとなら、ちゃんと相手にしてくれるお店も知ってるだろうしね。
なら、シェリスさんに来た見積もりは、カイザーさんの言うように、ちゃんとしたお店だって証拠かも。
まともな値段だったみたいだし。
まあ、ルイさんも文句を思い出すとちょっと不安なところはあるけどね。
でも、一緒に行くって言ってたし、直接出向けば変なことにはならないだろう。
普通に売ってくれればいいのにって思いは消えないけど。
「そう、なんですね。」
「今日あった相談か?」
優しい声で聞いてくれる。
クルビスさんも疲れてるし、お腹もすいてるはずなのに、私に気になってることがあったり、落ち込んでたりするとこうやって先に話を聞いてくれる。
それが申し訳ないと思ったこともあったけど、クルビスさん曰く、頼られる感じがして嬉しいそうで、もっと話して欲しいらしい。
それに、私の場合は元の世界とのギャップや知らない常識もたくさんあるから、すぐに聞いてくれる方がいいと言われて、それ以来甘えている。
「はい。その、式の後のデートの時、差し入れしてもらったでしょう?その時のヘビの一族の女性で、シェリスさんなんですけど、今日、見積もりが届いて…。」
たらたらと、思い出すままにしゃべる私の髪を撫でて、頷いて聞いてくれるクルビスさん。
甘えてばっかりだな。私。でも、嬉しい。