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きりの問題で1700字程あります。
「あの、私、もう一度手紙を書いてみます。支払いさえ何回かに分けてもらえれば、買うことはできますし、他に売って下さるあてもありませんので。」
それまで大人しかったシェリスさんが、決意したようにきっぱりと言う。
最後のセリフだけは弱々しかったけど。
売ってくれるあてがない、かあ。
これも色の問題なんだろうなあ。
でも、北西の地域のひと達はたくさんのひと達が食べ物のお店を開いているし、お店の数だって多い。
他にもお店がありそうだけど、カイザーさんとルイさんの表情からすると難しいんだろうか。
「いやいや。ちょっと待ってくれ。それなら、直接店にいくか、他の店も探した方がいいって。」
「たしかに、交渉するなら、直接顔を会わせる方がいいですね。他を探す手もありますが、お急ぎなんですよね?」
慌てて止めるルイさんに対して、カイザーさんが見積もりを見ながらシェリスさんに確認する。
シェリスさんは頷いて、理由を話してくれた。
「はい。使っていた平鍋が1つダメになってしまいました。ありがたいことにお客様も増えて来てるので、なるべく早く調理器具の数を増やしませんと、このままでは食事の提供に支障が…。」
あああ。探せばあるかもだけど、時間がないってやつかあ。
他の店を探して、見積もりして、作ってもらって、って結構時間かかるもんねえ。
私たちがお邪魔した時もお客さんで一杯だったし、あれからさらに増えてるとしたら、調理器具が足りない状態が続くのは困るだろう。
もうっ。どの店も普通に売ってくれればこんな問題にならないのに。
皆仕方ないって顔して話してるけど、おかしいよね?
う~ん。どうにか出来ないかなあ。せめて支払いのことだけでも。
「でしたら、このお店で発注してもいいと思います。」
「おいおい。カイザーさん。」
頷いたカイザーさんにルイさんが文句を言う。
それにゆるく首を振って、カイザーさんは理由を説明してくれた。
「支払いに関しては、恐らく、シェリスさんのお店が出来て数か月だからでしょう。発注品を作ってる途中でお店が無くなることもありますから、家族経営のお店ならあることです。ですが、シェリスさんのお店は繁盛していましたし、お客さんも増えているそうですね。それなら、直接出向いて、前金をいくらか払って、きちんと説明すれば大丈夫だと思いますよ。」
「直接、ですか。」
「ええ。見積もり依頼の手紙、うちから出したでしょう?それなら、もっと高く書かれてあっても不思議ではありません。でも、この見積もり自体は、仲介の店としては非常にまっとうで良心的です。出向くのは大変でしょうが、ちゃんと話せばわかって下さると思います。ねえ?ルイさん。」
「ん。そうだな。婿さんの悪い話も聞かないし、確かに、これ見てもちゃんとした商売やってるのがわかるよ。筋通せば、大丈夫だと思う。ただ、なあ。はあ。そもそも、何で、婿から返事がくるんだよ。俺の紹介状はゼフさん宛てだったってのに。何の断りもなしで、外注の見積もりだけ送ってくるってのがなあ。」
カイザーさんの提案に、賛成したものの渋るルイさん。
たしかに、紹介してもらった所に何もなしで、金額の上がった見積もり送るって失礼だよね。
普通は、説明があってしかるべきだ。
それなら、ルイさんだって、駆け込んでこなかっただろうし。
「まあ、そうですね。ですが、それも何か事情があったのかもしれませんし、急な代替わりだったのかもしれません。行ってみないことにはわかりませんよ。」
「そうだよなあ。はあ。シェリスさん、すまねえ。ゼフさんがまだやってるかどうか、確認を怠った俺のせいだ。俺も一緒にミネルバ工房に行くよ。女の子1つじゃアブねえしな。」
「いいえ。何から何までありがとうございます。一緒に来て下さるととても助かりますが、よろしいんですか?」
「ああ。紹介したからには、最後まできっちり面倒みさせてもらうぜ。任せとけ。」
「ありがとうございます。」
話はまとまったみたいで、支払いに関してはルイさんが一緒に交渉に行ってくれるようだ。
良かった。シェリスさんひとりじゃ、舐められるかもしれないし、大通りは危ないもんね。