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飛び込んできたのは、カバズさんとよく一緒にいるルイさんだ。
淡いピンクのトカゲの男性で、染物に関する品々を扱う店を営んでいる。
今日は珍しくおひとりだ。
ん?手紙を持ってる?
「どうされたんです?ルイさん。お荷物の引き取りですか?」
「違うんだ!聞いてくれ!てか、これ見てくれよ!」
丁寧にカイザーさんが声をかけるけど、興奮気味のルイさんは手にした手紙を押し付ける。
怒ってるというか、憤慨してる?そんな感じだ。
「はあ。…これは。」
そこに先程振りのシェリスさんが姿を現す。
一体どうしたんだろう。あの手紙って、もしかしてさっきの?
「これはシェリスさんのものでしょうか?」
「は、はい。」
カイザーさんの問いかけに息の上がったシェリスさんが答える。
もしかして、ルイさんを追いかけてきたのかな。
「少しこちらに良いでしょうか?デリアさん、カウンターお願いします。」
「はい。」
デリアさんと交代してカウンターを出たカイザーさんは、シェリスさんとルイさんを部屋の端に移動させてカーテンで区切った。
いろいろ事件があってから、さすがに関係ないお客さんにダダ漏れなのはどうだろうということになって、最近になって、とりあえず仕切りだけでもとカーテンを設置したものだ。
何かあった時に対応できるように、カーテンはカウンターからは見えるように区切ってある。
局員からは見えるけど他のお客さんからは見えないこの形は、個室にするより良さそうだと局員同士でも話している。
ちなみに、この話を聞いたキィさんは「お客の数が増えればもめ事も増えるからなあ。」と同意してくれて、こっそり防音の術式を刻んだ石をプレゼントしてくれた。
研究中のものらしく、カーテンの所に吊り下げて効果を見て欲しいと言われている。
私はギブアンドテイクのつもりだったけど、話を聞いたカイザーさん達は飛び上がらんばかりに驚いていた。
キィさんは術式の研究者としても名を知られていて、未完成とはいえ、その術式をタダで使わせてもらえるのはまずないのだとか。
驚いてクルビスさんに相談してけど、「キィが使ってくれというなら、使えばいい。」というあっさりした返事で参考にならなかった。
それで思い切ってキィさんに聞いたけど、キィさんも「何もいらねえよ。ちょうどどこかの工房に頼み込むとこだったんだから。」と笑ってたので、以来、ありがたく使わせてもらってる。
数年は置いて、術式の劣化具合や、発動に不具合が出ないか見て欲しいそうだ。
まあ、本格的に使うのは今日が初めてなんだけど。
その石にカイザーさんが軽く触れて、術式を発動させている。
すると、魔素がカーテン全体を覆うのが見えた。
「わあ。風ですかあ。」
「キィ隊長のお得意ですね。これなら、会話の音も紛らわせそうですね。」
風を操って音を散らす術式らしく、キャサリンさんとデリアさんが感心していた。
成る程ねえ。強い風が吹いたら周りの音も聞こえなくなるけど、それに近い効果があるんだろうな。
効果はカーテン一枚分だと聞いている。
だから、カーテンの左と右で音は分断されてるはずだ。
「それで、どうしてルイさんはこちらを…。」
「こんにちはー。荷物受け取りにきました。」
風で聞き取りづらいカイザーさんの声は、新しいお客さんの声にかきけされた。
うん。お客さんはカーテンを不思議そうにちらりと見たけど、あからさまに興味を示してもいない。
ちゃんと防音の機能は果たしているみたい。
良かった。これなら、中で安心して話してもらえそう。