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「ん~。見ることは出来るけど、証明はちょっと難しいかな。術式が残ってる状態で調べるならともかく、僕がむりやり止めたせいで崩れちゃってる可能性があるし。ディー君とキィ君が見たときどうだった?」
またお医者さんモードのメルバさんがキィさんに質問する。
そっか。倒れた後のカバズさんの様子は、フェラリーデさんとキィさんが確認してたのか。
「少し崩れていて、私には式が読み取れませんでした。キィはいかがですか?」
「俺も同じく。ただ、かけたやつの魔素は少し感じました。あれはキリークの一族ですね。独特の魔素なんで、まず間違いありません。ですが、証明は難しでしょう。」
キィさんの言葉に室内がざわつく。
キリークの一族って、たしか、守備隊のお隣の獣人のお兄さんがそうだって前に言ってたなあ。
雨季が終った後、フェラリーデさんに「会いたかったよ。愛しいひと。」って抱きつこうとしてブッ飛ばされてた時だ。
あの後、守備隊に居座ってご飯を食べる様子を見て、ついでに汁粉の味見もしてもらったんだよね。
甘さ控えめにした冷たい汁粉は口にあったらしく、「美味しい」と手放しで褒めてくれた。
その時に名前がオルトさんって言うことや、故郷もキジイっていう結構大きい街だってことを教えてもらった。
本当はもっと寒い地方に暮らしていたようだけど、一族が増えて食べ物が足りなくなって、南に南にって移動してきたらしい。
キジイの街で腰を落ち着けたけれど、そこで一族の商売の才能が開花した。
街の産出物である毛織物や糸、宝石なんかを売るルートを確立させ、北の中心都市にまで押し上げたらしい。
現在はルシェモモの街の良い取り引き相手だって聞いている。
計算に強くて、利に聡くて、公平でしたたか、それがキリークの一族を表す言葉だそうだ。
その一族がどうして、ルシェモモの技術者に術式をしかけたんだろう?
詐欺の手口だって、話に聞いてるキリークの商売人とはずいぶんかけ離れている。
でも、キィさんは確信しているようだ。
「キリークの一族ですか…。確か、詐欺をカバズさんに仕掛けたのもキリークの一族でしたね。個体の特定はどうですか?」
「あれっぽっちの魔素じゃなあ。個体の識別までは無理だな。」
どうやら、犯人の特定までは出来ないようだ。
これじゃあ、カバズさんに術式をかけた犯人を告発出来ない。
そうなったら、犯人はまたどこかで同じような手口を使うだろう。
今度は被害がハッキリと出るかもしれない。